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留菜マナ
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第三百十三話 暁の誓い④

公開日時: 2021年10月22日(金) 16:30
文字数:1,309

「でも、お兄ちゃん。そろそろ、勇太くん達が家に帰らないといけない時間だよ」

「そうだな」

「そうだね」


花音が懸念材料としてインターフェースで表示した時刻を、望とリノアはまじまじと見つめる。

学校が終わったばかりの夕方の時刻から、目的のダンジョンに向かったためか、既に夜の時刻になっていた。

次の日が休日だとはいえ、これ以上、連絡もなしに帰りが遅くなるのは厳しい。


「とりあえず、紘にメッセージを飛ばしてみるな。紘のことだから、勇太達の家に対して、何かしらのフォローはしていると思うけれどな」


メッセージは、プレイヤー同士を繋ぐ通信手段だ。

徹が半透明のホログラフィーを表示して、紘に向けて文字を入力し、送信する。


「心配するな、妹よ。今回は帰りが遅くなることを見越して、ダンジョンに向かう前に、母さんに望達の家への事前連絡を頼んでいる。既に、自宅では望達が泊まるための準備は整っているはずだ」

「さすが、お兄ちゃん、お母さん!」


有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。


「有の家に泊まるのは僕達だけか。残りのメンバーは、いろいろと大変だろうな。君達、『アルティメット・ハーヴェスト』は、彼らの支援を充実させてくれ」

「……おまえ、いつも一言多いぞ」


銃の整備をしていた奏良の素っ気ない言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。


「今日は、望くんと奏良くんがお泊まりするんだね!」

「その通りだ、妹よ」


喜び勇んだ妹の意を汲むように、有は自身の考えを纏めた。


「だが、妹よ。喜ぶのは、現実世界に帰還して、安全を確保してからだ」


有は長々とため息をついてから、決然とこれからの方向性へと目線を向けた。


残りのダンジョン調査は、三ヶ所全て、調査を終えられる方法を模索する必要がありそうだなーー。


不意に別の見解が、有の意識の俎上(そじょう)に乗る。


「わーい! 望くん達と一緒に、お泊まり会だよ!」

「そうだな」

「そうだね」


花音は両手を前に出して、水を得た魚のように目を輝かせる。

そんな花音の笑顔を、望とリノアは眩しそうに見つめていた。






『創世のアクリア』のプロトタイプ版から現実世界へとログアウトした後、望達は張りつめたような緊張感からようやく解放される。


「ここは、有の部屋だよな」


望は周囲に視線を巡らせ、ここがログインした場所ーー有の部屋であることを認識する。

望と同じ言動を繰り返していたリノアはいない。

今頃、仮想世界のリノアはギルドで、プラネットに見守られながら眠りについているはずだ。

だが、現実世界のリノアは今も『レギオン』と『カーラ』の関係者達がいる病院に入院させられている。

現実世界が、美羅による理想の世界へと変わった今、リノアの退院の手続きはもはや、リノアの家族の一任だけでは決められない。

リノアは病院で施された医療機材によって、強制的に『創世のアクリア』のプロトタイプ版にログインさせられていた。

しかし、裏を返せば、今の彼女は望達が側にいるか、それ相当の医療処置を受けない限り、生き続けることはできなかった。

時折、街中に響く音を聞きながら、花音は窓辺から夜景をぼんやりと眺める。

月の灯に照らされた横顔は、いつにも増して寂しく、疲れているように見えた。

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