「相変わらず、この街にいるプレイヤーが、僕達だけというのはいささか複雑な心境だな」
「うん。私達、ギルドの貸し切りみたいだね」
奏良の懸念に、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて答える。
やがて、右手をかざした花音は、爛々とした瞳で周囲を見渡し始めた。
「でも、奏良くん、プラネットちゃん。『レギオン』と『カーラ』の人達が、また奇襲を狙って何処かに隠れているかもしれないよ!」
「はい。以前は盲点を突かれてしまいましたが、必ず見つけてみせます!」
「花音、プラネット、ありがとうな」
「花音、プラネット、ありがとう」
両手を握りしめて語り合う花音とプラネットに熱い心意気を感じて、望とリノアは少し照れたように頬を撫でてみせる。
「その前に妹よ。『サンクチュアリの天空牢』で手に入れた『氷の結晶』の残存を把握しておきたいし、そろそろギルドに戻るぞ」
「うん」
有が咄嗟にそう言って表情を切り替えると、花音は嬉しそうに応じる。
今後の目的が定まった望達は早速、ギルド内へと足を運ぶ。
「ただいま、お父さん、お母さん!」
「有、花音」
「花音、お帰り」
花音が喜色満面でギルドに入ると、奥に控えていた有の両親は穏やかな表情を浮かべる。
アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出していた。
クエストを終えた喜びも束の間、有は今後のことを思案した。
「プラネットよ、残りの調査対象になるダンジョンは四ヶ所だったな?」
「はい、『サンクチュアリの天空牢』の調査を終えたので、残りは四ヶ所になります」
有の的確な疑問に、プラネットは訥々と答える。
「残りは四ヶ所か」
プラネットの報告に、奏良はカウンターに背を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。
「残りの調査対象になるダンジョンは、どれくらいの難易度なんだ?」
「残りは全て、『サンクチュアリの天空牢』と同等の中級者ダンジョンになります」
奏良の質問に、プラネットは躊躇うように微笑する。
そのタイミングで、有は先程から気がかりだった事を切り出した。
「プラネットよ、残りの調査対象のダンジョンには、本当にプロトタイプ版だけのダンジョンはもうないのだな?」
「はい、私が分かる範囲ではそうなります」
有の鋭い問いに、プラネットは丁重に答えた。
「他のダンジョンは、オリジナル版でも存在が確認されています」
プラネットは、人数分の紅茶を準備すると、丁重にテーブルに並べる。
望達は席に座ると、次に向かうダンジョンを調べ始めた。
「今後のダンジョン調査はどうするのか、悩みどころだな」
「今後のダンジョン調査はどうするのか、悩みどころだね」
先程の『サンクチュアリの天空牢』の戦闘を思い返して、望とリノアは複雑な心境を抱いた。
「『創世のアクリア』のプロトタイプ版。僕達も含めて、三大高位ギルドは、いつでもログインすることができる状態だ。少なくとも、五千人以上は、特殊スキルの使い手を狙って、この世界を行き来していることになる」
「ああ」
奏良の危惧に、有は深々とため息を吐いた。
ログインできる者は限られているとはいえ、一万人以上のプレイヤーが、この仮想世界を行き来している。
そして、その半数近くが、特殊スキルの使い手である望と愛梨を狙っているという事実。
有は、次の手を決めかねていた。
それは、開発者達という特異性だけではなく、彼らの手腕も侮ることはできないと感じていたからだ。
そこで、両手を伸ばした花音は、興味津々な様子で有に尋ねる。
「お兄ちゃん。『サンクチュアリの天空牢』で手に入れた『氷の結晶』の残存はどのくらいあるの?」
「妹よ。『氷の結晶』の残存はあと一つだ。先の戦いで、ほとんど使ってしまったからな」
「『氷の結晶』の残存はあと一つか」
「『氷の結晶』の残存はあと一つね」
有の想定外の発言に、望とリノアは窮地に立たされた気分で息を詰めた。
「最後の『氷の結晶』は貴重だ。しばらくは、素材として残しておいた方がいいだろう」
有のその慎重な対応を皮切りに、花音は表情に期待を綻ばせる。
「なら、お兄ちゃん。残りの調査対象のダンジョンで、『氷の結晶』のような貴重な素材が手に入る場所があるのか、調べたらどうかな?」
「なるほど、妹よ、一理あるな」
有は顎に手を当てると、花音の発想に着目する。
「よし、妹よ。早速、残りの調査対象のダンジョンの詳細を調べるぞ!」
「うん! 残りの調査対象のダンジョンって、どんな感じの場所なのかな!」
有の決意に応えるように、花音はダンジョンへの意気込みを語った。
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