「俺を、『アルティメット・ハーヴェスト』に加入させる?」
予想外な紘の申し出に、望は輪をかけて動揺した。
「望くんは渡さないよ! 望くんは、私達の大切な仲間だもの!」
紘の誘いを、花音は眦(まなじり)を吊り上げて強く強く否定する。
「ああ。望は、俺達の大切な友人で仲間だ。他のギルドに渡すわけにはいかない」
「愛梨を守ることが僕の役目だ」
強い言葉で遮った花音の言葉を追随するように、有と奏良は毅然と言い切った。
「椎音紘くん、君の真意が見えてこない。それに、望くんはもう『キャスケット』の一員だ」
「望くんのことは、蜜風さん達から頼まれているからね」
有の父親と母親も、紘の提案を拒む。
望はそんな有達に苦笑すると、ため息とともにこう切り出した。
「悪いけれど、俺はもう『キャスケット』の一員だし、辞めるつもりもない」
望達の否定的な意見に、紘は静かに目を伏せる。
「なら、これからも君を監視するまでだ。愛梨を守る。そのためなら、私は何でもする」
驚愕する望達をよそに、紘はどうしようもなく期待に満ちた表情で、ただ事実だけを口にした。
切羽詰まった表情を浮かべる望達をよそに、紘は先を見据えるように続ける。
「この城下町の冒険者ギルドに行けば、君達の新たな仲間に会えるはずだ」
「そのことまで知っているのか?」
紘の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、望達は戦慄した。
「冒険者ギルドに行くかは、君達で決めるといい」
いつの間にか、パレードの方まで移動していた紘に、望はすがるような思いで尋ねる。
「なら、俺達が冒険者ギルドに寄らずに、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドに向かった場合、どうなるんだ?」
「その場合、どうなるかは君達次第だ」
紘は去り際に意味深な台詞を残して、パレードの向こうへと消えていった。
どういうことなんだろう?
望の脳裏に浮かぶのは、『強制同調(エーテリオン)』という非現実的な力のことだった。
愛梨の記憶では、先を見据え、未来へと導く力だという解釈になっている。
だが、それだけではないような気がした。
望が思い悩んでいると、有は釈然としない態度で、パレードの方へと視線を向ける。
「望、奏良、父さん、母さん、妹よ。このまま、冒険者ギルドに寄らずに、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドに向かうぞ」
「冒険者ギルドには寄らないのか?」
探りを入れるような有の言葉に、望の顔が強張った。
「椎音紘の思い通りに、事が進むのは癪(しゃく)だからな」
「うん」
「そうだね」
「愛梨のギルド兼任の要請もしていないからな」
有の方針に、花音と有の母親が頷き、奏良は渋い顔で承諾する。
目的地が定まった望達は、王都にそびえる白亜の塔ーー『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームへと向かったのだった。
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