兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第四十八話 あの日、あの瞬間①

公開日時: 2020年11月25日(水) 16:30
文字数:1,330

望達は王都、『アルティス』の中央通りに立ち並ぶ店を回り、必要なものを揃えていく。


「転送アイテム自体も高いが、転送アイテムを生成するための素材も高いな。ギルドの予算内で考えると、一つ作るのが精一杯か」


転送アイテムは、お店では高額で取り引きされている。

有はそれより安く見積れるようにと、必要な素材を購入して、新たに転送アイテムを一つ生成した。

カリリア遺跡の攻略で手に入った転送アイテムが残っているとはいえ、五大都市まで赴かなくては転送アイテムの素材が全て揃うことはないからだ。

煉瓦造りの様々な店を前にして、花音は興味津々な様子で歩いていく。


「ねえ、お兄ちゃん。今回のクエストの報酬である『ネモフィラの花束』は、転送アイテムを生成するための素材になるのかな?」

「妹よ。転送アイテムの素材にすることはできるが、もっと有効なアイテムの素材になる」


花音の疑問に、有は少し逡巡してから答えた。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「えっ? 転送アイテムより、すごいアイテムになるの?」

「『ネモフィラの花束』を使えば、状態異常の回復アイテムに、モンスター避けのお香、ギルド専用のアイテム収集鞄、そして飛行アイテムの素材にもなる。もちろん、ポイントに換金することもできるな」


花音が興味津々の表情で尋ねると、有はきっぱりと答える。

やがて、中央の大通りを馬車が進んでいく姿を見留めると、花音はずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せた。


「お兄ちゃん。ここから馬車を手配するなら、冒険者ギルドに行くんだよね?」

「その通りだ、妹よ」


花音が戸惑ったように訊くと、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「冒険者ギルドか。上手く、馬車の手配ができるといいんだけどな」


インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望は顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。

望達は準備を終えると早速、冒険者ギルドに立ち寄り、馬車を手配することにした。

クエストを受注したり、馬車を手配するためには、基本、自身のギルドか、冒険者ギルドで行う必要がある。


「ここからメルサの森までの片道分の馬車を手配したい」

「かしこまりました。では、メルサの森までの片道乗車分のポイントを消費させて頂きます」


NPCの受付の指示の下、有は指を横にかざし、視界に浮かんだゲームアプリの横にあるポイントアプリを、指で触れて表示させる。

そして、目の前に可視化した累計ポイントを確認すると、馬車の項目を選び、ポイントを支払う。


「ありがとうございます。では、すぐに馬車を手配させて頂きます。メルサの森までの、片道乗車で間違いありませんでしょうか?」

「ああ」


NPCの受付の再確認に、アプリ表示を消した有は承諾した。


「メルサの森まで、馬車の旅だな」

「わーい! 今回は、みんなで馬車に乗れるよ!」

「カリリア遺跡の時は、僕は一人で行くことになったからな」


望が緊張した面持ちで告げると、花音は歓声を上げて、奏良は持っている銃を悲しげに揺らして肩をすくめる。


「こちらが、皆様の馬車になります」


NPCの御者に案内されて、望達は馬車に乗り込んだ。

NPCの御者の手引きにより、馬車が動き始める。

そして、望達は目的地のメルサの森へと向かったのだった。

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