「いろいろと試すか。君はどんな手段を用いて美羅の残滓から聞き出すつもりだ」
奏良は腕を組み、少しだけ考えた様子をみせる。
「そもそも、美羅の残滓と会話らしきものが成立するとは思えないな。君が考えている手段で問いただしても話すとは限らない」
「……おまえ、いつも一言多いぞ」
奏良が非難の眼差しを向けると、徹はきっぱりと異を唱えてみせた。
「とにかく、今の美羅は人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手の力を超えるほどの絶対的な力を持っている。残滓と化した思念でも、何か得られるかもしれない」
「そうだな。ただ、少なくとも、彼女と会話することはできそうもないな」
「そうだね。ただ、少なくとも、彼女と会話することはできそうもないね」
その徹の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは眸に困惑の色を堪える。
「美羅ちゃん」
花音が声をかけるものの、少女から一向に反応は返ってこない。
美羅の残滓である少女は、こちらの状況がまるで見えていないように花摘みに夢中になっていた。
まるで望達が見えていないみたいだ。
NPCである彼女は、常に同じ行動を繰り返している。
過去のデータをモデリングされているからなのか?
何故、どうしてという疑問が、望の思考を埋め尽くす。
しかし、いくら考えても答えは出ない。
長い沈黙があった。
張りつめているようで間延びしているような沈黙。
心が揺れているようで微動だにしない沈黙。
「会話はできなくても、美羅の残滓から、情報を得ることはできるはずだ!」
その沈黙を打ち破ったのは勇太だった。
その声は周囲へ清々しいほど高らかに鳴り響く。
「俺はみんながそれぞれ切り拓(ひら)く未来を生きたい! 未来が決まっているなんてつまらないからな!」
「「勇太くん!」」
勇太の決意に、望とリノアは喜びに満ちたように応える。
「美羅の真なる力の発動がなくても、未来は変えられるってことを……目の前の美羅に証明してやろうぜ!」
――世界の安寧のために犠牲が付きものだ。
そんな言葉に頷いてはいられない。
未来のために、大切な人の犠牲を孕む可能性をこのまま、見過ごせないと。
「そうだな。望と愛梨の特殊スキルの力なら、美羅によって定められた未来を変えることができるはずだ」
その様子を見守っていた徹は屈託のない様子でつぶやいた。
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