「美羅の残滓が、機械都市『グランティア』に赴くための鍵。そして、美羅の残滓を消滅させたら、本当にリノアはわずかの間だけでも意識を取り戻すことができるかもしれない……」
リノアとリノアの家族が妄執に囚われていた存在。
現実世界が無惨な末路へと至った元凶。
先程まで抱いていた懸念が払拭した勇太は苦々しくうつむいた。
『勇太くん』
もうすぐ、本来のリノアに会えるかもしれない。
気づけば、記憶の底から浮かび上がってくる思い出達。
胸は喜びに満ち、それ以上の緊張と不安に張りつめて弾けてしまいそうだった。
それでも……。
「必ず、助けてみせるからな」
勇太は機械都市『グランティア』に赴いた先で待っている、リノアの笑顔へと語りかける。
『私は、明日から美羅様に生まれ変わるの』
『生まれ変わる?』
『うん。だから、明日から、あなたに会うことはない』
勇太の脳裏には胸のつかえが取れたように微笑むリノアの姿。
もうどのくらい会っていないんだろうか。
本来のリノアと交わした会話の数々を勇太は懐かしむ。
『ねえ、勇太くんは何か望みはある? 私の望みは、美羅様になることなの』
賢が求めた理想を体現しようとするあの頃のリノアの姿が、勇太の心の琴線に触れた。
「リノア、おまえの望みは美羅になることじゃないからな」
勇太は遠い記憶に掘り起こしたことで、改めて自分が為すべきことを触発された。
久遠リノア。
同じクラスメイトで、いつも意気投合していた彼女。
些細な喧嘩が元で絶交中だった彼女。
だけど、不器用な俺はいつまでも彼女に謝ることすらできなかった。
だから、今度こそ、彼女に謝りたい。
そして、もう一度、彼女に笑ってほしい。
幼い頃の勇太は毎日が楽しくて仕方がなかった。日々、大好きな幼なじみのリノアと遊んで、家に帰れば優しい笑顔で家族が迎え入れてくれる。
そんな当たり前の幸せな日々。
これからもそんな日々が続くと思っていた。
『勇太くん』
大輪の向日葵のような、思わず目を奪われるリノアの笑顔。
俺は幼い頃からリノアが好きだった。
時が廻り、季節が廻っても、この思いだけは変わらない。
リノアに伝えたい想いはたくさんある。
これから長い時を一緒に過ごすたびに、それは増えていくのだろう。
一言に集約できない気持ちはいつか全部、彼女に伝えきれる日が来るだろうか。
分からない。分からないけど。
これだけは確かだ。
「リノアにもう一度、会いたい!」
「「勇太くん……」」
勇太の確固たる決意に、望とリノアは嬉しそうな表情を浮かべる。
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