兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第六十七話 終わらない幻想の中②

公開日時: 2020年12月5日(土) 07:00
文字数:1,415

「……なるほど」


奏良は一拍置いて動揺を抑えると、有が口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼した。


「『創世のアクリア』のサーバー以外のゲームに関する全ての書き込みを規制する。だが、『創世のアクリア』の掲示板なら、ゲーム内の書き込みはできる。偽の情報を流して、特殊スキルの使い手を狙う他のプレイヤー達を混乱させるんだな」

「ああ。『カーラ』が出してきた、膨大な報酬のクエスト。後手に回っていたら、望と愛梨を守ることはできないからな」


奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。


「でも、お兄ちゃん。私達が、掲示板に嘘の情報を書いても、みんな、報酬が多い『カーラ』のクエストを受けようとするんじゃないかな?」

「その通りだ、妹よ。恐らく、『カーラ』側は、俺達が書き込んだ偽の情報を真っ向から否定してくるだろう。だからこそ、幻想郷『アウレリア』に赴く必要がある。このクエスト自体を取り消すためにもな」


花音が声高に疑問を口にすると、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「ーーそうか! クエスト自体がなくなったら、みんな、掲示板の方が正しかったと思うな!」

「まあ、そちらが本命だろうな」


幻想郷『アウレリア』に赴く真意に触れて、望と奏良は納得したように頷いてみせる。


「『カーラ』はそれを放棄するだろうが、それでも赴く価値はあるだろう」

「すごーい! さすが、ギルドマスターのお兄ちゃんだね!」


有の思慮深さに、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。


「その前に、『アルティメット・ハーヴェスト』に協力の要請を求めるつもりだ。その後で、幻想郷『アウレリア』に赴いた方がいいだろう」

「幻想郷『アウレリア』は、初めて訪れる場所だからね。対策を練ってから、赴いた方がいいかもしれない」


有の言葉を受けて、有の母親はインターフェースを使って、幻想郷『アウレリア』の情報を検索する。

その瞬間、望達の目の前には、幻想郷『アウレリア』のホログラフィーが表示された。


幻想郷『アウレリア』ーー。

そこは、『創世のアクリア』における五大都市の一つだ。

高位ギルド、『カーラ』のギルドホームがあり、クエストを受注できる『冒険者ギルド』もある。

そして、幻想郷『アウレリア』の都市やその周辺で出現するモンスターや生物は全て、空を飛んでいた。

噴水の周辺を飛ぶ魚の群れという、他の街や村では見ることができない光景を垣間見ることができるだろう。


「掲示板の件、それに幻想郷『アウレリア』について、やることがたくさんあるな」

「望くん、一緒に頑張ろうね」


望が咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望を見上げる。

そこで、有の母親は少し困ったように切り出した。


「有、花音、望くん、奏良くん。そろそろ時間も遅いし、幻想郷『アウレリア』に赴くのは次の機会にした方がいいね」

「まあ、掲示板に誤情報を書き込む方が先だろうな」

「そうですね」


有の母親がインターフェースで表示した時刻に、奏良とプラネットは視線を向ける。


「……みんな、ありがとうな」


言葉には出来ない感謝の想いが、望の胸に広がる。

その時、遠くで花火が上がる音がした。


「わあっ!」


ギルドの外に出た瞬間、夜空に広がった大輪の花に、花音は歓声を上げる。


「望くん、すごいね」

「ああ、すごいな」


幻想に彩られた世界の中で、花音の柔らかな笑顔だけが確かだった。


星々に照らされた『キャスケット』のギルドホーム。

望達の未来を変えてくれるかもしれない仲間達が、確かにそこにいた。


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