「収穫は、吉乃信也のあの言葉だけだったな」
望達は『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の調査を終え、地上へと降り立った。
王都、『アルティス』の街並み自体は、先程までとさほど変わらない。
大勢の人で賑わい、プレイヤー達の行き来も激しかった。
モンスターの情報や、クエストについての噂、ダンジョンで手に入れた武器の自慢、あるいは現実での話を持ち込み、会話に花を咲かせている。
徹とともに遅れて地上へと舞い降りたイリスは、迷いのない足取りで望達のもとへと歩み寄った。
「皆様、ご無事で何よりです」
「ああ」
イリスがおずおずと誠意を伝えてくると、振り返った望は安堵の表情を浮かべる。
イリスは、そう答えた望に対して熱い心意気を向けた。
「私は『アルティメット・ハーヴェスト』に所属しております自律型AIを持つNPC、イリスです。徹様に代わり、これから皆様の支援をさせて頂きます」
「……支援?」
イリスの思わぬ言葉に、望は虚を突かれた。
「はい。『アルティメット・ハーヴェスト』に所属するNPCとして恥じない支援をさせて頂きます」
「そう言われても、意味が分からない」
うっとりと目を輝かせたイリスの宣言に、望はため息をつきたくなるのを堪える。
望が怒涛の展開に戸惑っていると、有は前に出て切り出した。
「イリスよ。椎音紘から、俺達の監視と警護に当たるように言われてきたのだな?」
「仰る通りです」
有の質問に、イリスは律儀に答える。
「これからは彼女も、俺達に同行することになるんだな」
「警護だけではなく、監視まで言いつかっているのか」
望の言葉に、腕を組んだ奏良は不愉快そうに有に目配りする。
有はそれに応えるように、インターフェースを操作して、NPCであるイリスの情報を表示させた。
「望、奏良よ。彼女は自律型AIを持つNPCだ。マスターは、椎音紘になっている」
「はい。『アルティメット・ハーヴェスト』のために、皆様を全力で支援させて頂きます」
有の言葉を補うように、イリスは望達の目の前で丁重に一礼した。
「イリスさん。初めまして、私は自律型AIを持つNPC、プラネットです」
「存じ上げております」
恭しく頭を下げるプラネットを見て、イリスは毅然とした態度で物怖じせずに言う。
長く赤みがかかった黄金色の髪を揺らし、人形のように整った顔立ちをした彼女は、紺碧の瞳をまっすぐプラネットに向けてくる。
街の喧騒の中、二人だけ時間が止まってしまったかのように視線が交錯した。
「同じNPC同士、この世界で頑張って生きていきましょう」
「私達NPCは、マスターに従うまでです。それ以上でもそれ以下でもありません」
ほんわかな笑みを浮かべて言うプラネットを見て、イリスは剣呑の眼差しを返す。
「イリスは相変わらず、他のNPCに対して厳しいな」
「徹様、私は自分の考えを改めるつもりはありません」
徹の気楽な振る舞いに、イリスはプラネットを一瞥し、あくまでも自身の信念を貫き通した。
不可解な空気に侵される中、花音が二人の間に割って入る。
「もう、プラネットちゃん、イリスちゃん! 望くんと愛梨ちゃんのために、二人で仲良く守ろうよ!」
「はい」
「仲良くはともかく、お二人は必ずお守りします」
花音のどこか確かめるような物言いに、プラネットが嬉しそうに、イリスは不快そうに顔を歪める。
気まずげな雰囲気が漂う中、有は改めて切り出した。
「徹、そしてイリスよ、助かった」
「ああ」
有が代表して感謝の意を述べると、徹は照れくさそうに答える。
「これからもクエストに赴く際には、力を貸してほしい」
「ああ。まずは、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』以外のダンジョンの調査からだな」
「もちろんです」
有の発言に、徹とイリスはそれぞれの表情で応える。
一悶着ありながらも、望達は決意を新たにするのだった。
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