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留菜マナ
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第三百四十三話 地面を穿たんとばかりに降り注ぐ②

公開日時: 2022年5月27日(金) 16:30
文字数:1,335

「マスター。この周辺では、電磁波の発生は感じられません」


インターフェースを操作していたプラネットは訥々と答える。

奏良と徹が言い争っている間、プラネットは目を閉じて、『レギオン』と『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。


「そうなんだな。何事もなく戦いに集中できるといいんだけどな」

「そうなんだね。何事もなく戦いに集中できるといいんだけど」


インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望とリノアは顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。

騒ぎを起こした事で、信也には既に望達の居場所は知れているだろう。

だが、望達は敢えて、その状況を生かすために動いていく。


望達のもとに集う者は知っている。

自分達の行動が、誰かの運命を変える事ができるのだと。






「さて、この騒ぎが吉と出るか凶と出るか」


冒険ギルドの奥際の席に紛れる影。

魔術士風の格好をした青年は、身に纏っていたフードを取り払った。

紫水晶の瞳に、作り物のような繊細な顔立ちの青年。

彼が装備する武器や防具はどれも精巧で、かなりのレアアイテムであることが分かる。

『カーラ』のギルドマスター吉乃かなめの兄、吉乃信也だ。

騒ぎが起きている場所へ熟視すれば、ターゲットである望達の姿があった。


「美羅から授かった『明晰夢』の力は使いどころが難しいな」


インターフェースで表示した時刻と王都『アルティス』のマップを照らし合わせ、信也は冷静に明晰夢の力を精査する。

信也は美羅から授かった『明晰夢』の力を行使して、望と愛梨を捕らえる腹積もりだ。


「いざという時の奥の手として残しておくしかないか」


冒険者ギルド内で意図的に薄い存在感に徹していた信也は、ニコットと疎通して望達の居場所を特定していた。


「密風望達がここに来たという事は、椎音紘は私の居場所を知っていると考えるべきだな」


信也は紘の特殊スキルを警戒しながら、王都『アルティス』まで出向いた。

だが、その警戒心は無為に終わる行為だったと悟る。


紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』。

それは過去、現在、未来、全てを見据えた上で、未来へと導いていく力だ。

規格外である紘の特殊スキルによって、『アルティメット・ハーヴェスト』は様々な情勢を自由に選択することができる。

その力を用いれば、望を美羅に遭遇させないようにすることも出来たはずだ。

しかし、望と美羅は、『レギオン』と『カーラ』によって作為的に引き合わされている。

つまり、美羅の力によって引き起こされた出来事は、如何に特殊スキルの使い手であっても覆すことは厳しいということだ。


「美羅から授かった『明晰夢』の力と椎音紘の特殊スキルの力。どちらに軍配が上がるのか、試させてもらおう」


グラスにワインを注ぎ、信也は運命の天秤を傾けていく。


「うわぁっ!」


その時、遠くで馬が嘶(いなな)く声が聞こえる。

続いて、「馬が逃げた」と言う叫びが聞こえた。


「馬……? NPCは『アルティメット・ハーヴェスト』によって管理されているはずだが?」


思わぬ出来事に、信也は訝しむ。

馬が逃走した騒ぎが起こると同時に、携帯端末が仲間からの警告を報せる。


『吉乃信也様、陽動です』

「陽動……? 先程、密風望達が話していた作戦か?」


ニコットがもたらした警告の意味を、信也は即座に理解した。

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