翌日、有の家に集まった望達は、携帯端末を操作して、『創世のアクリア』のプロトタイプ版へとログインする。
オリジナル版と同様に、目の前に広がる金色の麦畑や肌に纏わりつく風と気候も、まるで本物のように感じられた。
だが、有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並みは閉散としていて人気は少ない。
唯一、見かけるのは、NPCである店員の姿だけだった。
有の父親は休日出勤しているため、今日はログインしていない。
「お兄ちゃん。今日は『サンクチュアリの天空牢』に行けるのかな?」
「妹よ。残念だが、徹のーー『アルティメット・ハーヴェスト』の連絡待ちになる」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「クエスト達成条件として記されていたNPCの少女は、どの牢獄にも囚われていない。そして、最深部の牢にたどり着いた時点で、クエスト達成の表示がされるようになっていると言っていたな」
奏良は一昨日、徹が告げた内容を思い返して渋い顔をした。
「まだ、得体の知れないダンジョン。どこまで二大高位ギルドと渡り合えるのか、判断がつかんな」
「『シャングリ・ラの鍾乳洞』の時のように待ち伏せされるのは厄介だ。索敵が完全に済んでから、ダンジョンに赴いた方がいいだろう」
奏良の懸念に、有は推測を確信に変える。
「とにかく、望、奏良、母さん、妹よ 。ギルドで今後、『サンクチュアリの天空牢』の後に向かうダンジョンについて調べるぞ!」」
「ああ」
「うん」
「そうだね」
「それしか、この状況を打破する手段はなさそうだからな」
有の方針に、望と花音と有の母親が頷き、奏良は渋い顔で承諾する。
目的が定まった望達は早速、ギルドへと足を運ぶ。
「マスター、おはようございます。リノア様が目覚めました」
「そうなんだな……」
「プラネットよ。恐らく、望がログインした事で、リノアもまた、連動したように目覚めたのだろう」
「わーい、プラネットちゃん!」
望達がギルドに入ると、リノアの事を任せていたプラネットが控えていた。
アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出している。
リノアの状況を聞いていたのも束の間、有は今後のことを思案した。
「プラネットよ、『アルティメット・ハーヴェスト』の連絡は来ていないのだな?」
「はい、徹様からのご連絡は来ていません」
有の的確な疑問に、プラネットは訥々と答える。
「しばらく、連絡待ちか」
プラネットの報告に、奏良はカウンターに背を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。
「調査対象になるダンジョンは、どれくらい残っているんだ?」
「『サンクチュアリの天空牢』を含めて、残りは五ヶ所になります」
奏良の質問に、プラネットは寂しそうに微笑する。
そのタイミングで、有は先程から気がかりだった事を切り出した。
「プラネットよ、残りの調査対象のダンジョンで、プロトタイプ版だけのダンジョンはどれくらいある?」
「プロトタイプ版のみに存在する調査対象のダンジョンは、『サンクチュアリの天空牢』のみとなります」
有の鋭い問いに、プラネットは丁重に答えた。
「他のダンジョンは、オリジナル版でも存在が確認されています」
プラネットは、人数分の紅茶を準備すると、丁重にテーブルに並べる。
望達は席に座ると、徹からの連絡、勇太達が訪れるまでの間、次に向かうダンジョンを調べ始めた。
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