「妹よ。残りの調査対象のダンジョンは、全てボスが居ないダンジョンだ。だが、『レギオン』と『カーラ』の妨害が懸念材料だな」

「……お兄ちゃん。私、あの子を助けてあげたい」

サモナークエストの際に、花音達が交流していた使い魔は賢達の介入により、暴走する結果になった。

『這い寄る水晶帝』。

少し変わり種の中級者クエストだ。

このダンジョン内では、召喚のスキルを持たない者でも、モンスターなどを使い魔として一体、召喚して呼び出すことができる。

その使い魔をダンジョン内で成長させることが、クエスト達成の条件になっていた。

だが、戦闘は通常どおりに発生するため、使い魔と連携していく必要性が示唆される。

どのような趣向を凝らして、使い魔を成長させるのかーー。

滅多に見ないクエストだったのだが、花音達と交流していた使い魔は『レギオン』の手により利用されてしまった。

「『レギオン』と『カーラ』の動向が気がかりだな。残りのダンジョンは、最初から『アルティメット・ハーヴェスト』と連携して調査した方が良さそうだ」

落ち込む花音を見かねて、勇太は思い思いに決意を新たにする。

勇太の疑問を受けて、有はプラネットに目配せした。

「プラネットよ、頼む」

「はい」

有の指示に、プラネットは恭しく礼をする。

そして、軽い調子で指を横に振り、望達の目の前に残りのダンジョンを可視化させた。

護衛クエストのダンジョン。

探索クエストのダンジョン。

アイテム生成クエストのダンジョン。

残りの調査対象ーー異なる趣向のクエストのダンジョンが表示されている。

「とにかく、今日はこのまま、ギルドに帰還してログアウトしよう。ソロプレイヤーである吉乃信也が不意を突いてくる可能性も否めないからな」

「そうだな」

「そうだね」

徹が発した警告に、望とリノアは同意を示した。

「この状況で不意討ちは勘弁してほしいな」

「ああ。すぐに転送石を使って、この場から離脱した方がいいだろう」

奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。

「徹様。私達はこのまま、周辺の索敵を行います。特殊スキルに関する情報を発見次第、ご報告させて頂きます」

「ああ。イリス、頼むな」

「はい」

徹の指示に、イリスは周囲を警戒するように応えた。

イリスは飛翔し、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と一緒に調査を再開する。

「よし、望、奏良、プラネット、徹、勇太、リノア、そして妹よ。ギルドに戻るぞ！」

「うん！」

「まあ、目的は達成したからな」

有の方針に、花音が頷き、奏良は渋い顔で承諾した。

望達が転送石を掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、『キャスケット』のギルドホームの前にいた。

「わーい！　マスカットに戻ってきたよ！」

湖畔の街、マスカットに戻ってきていることを確認すると、花音は嬉しそうにはにかんだ。

プラネットは居住まいを正して、真剣な表情で尋ねる。

「マスター。今回のダンジョン調査のクエストが終わり次第、『レギオン』と『カーラ』の管轄内にあるダンジョンにも注意を向ける必要性がありそうです」

「……あ、ああ。そうだな」

「……う、うん。そうだね」

「……これからのダンジョン調査への対策はどうしたらいいのかな」

望とリノアが言い繕うのを見て、花音は自らの不可解な点を口にする。

周囲を警戒していた奏良は、心を落ち着けるように話を切り出した。