「あっ……」
愛梨に異変が起きたのは、花音達がショッピングを終えた後、ギルドに戻ろうとして田園通りを歩いていた時だった。
「愛梨ちゃん、どうしたの?」
「……っ」
花音が疑問を口にしたその瞬間、愛梨の身に変化が起きた。
光が放たれると同時に、ストロベリーブロンドの髪の煌めきが飛散し、光芒が薄闇に踊る。
光が消えると、そこには愛梨ではなく、望が立っていた。
「ーー愛梨から、もとに戻ったのか?」
意識を取り戻した時、望はすぐに違和感に気づいた。
先程まで自身の特殊スキルにより、愛梨と入れ替わっていたはずなのに、いつの間にか元の姿に戻っている。
周囲を見渡すと、望の視界には、幻想的な淡い夕暮れがどこまでも遠く広がっていた。
「ど、どういうこと? 愛梨ちゃんが、望くんに戻ったよ?」
「魂分配(ソウル・シェア)のスキルは、魂を分け与える力だ。愛梨に魂を分け与えたことで、ゲーム内でも、スキルを使うことで愛梨と入れ替わるみたいだな」
花音が戸惑ったように訊くと、望は顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。
望はインターフェースを使い、ステータスを表示させると、愛梨の時と同じように自身のレベルが上昇していることを確認した。
「そうなんだね。じゃあ、望くんがまた、スキルを使ったら、愛梨ちゃんになるのかな?」
「試してみるか。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」
花音の疑問に応えるように、望は再び、自身のスキルを口にする。
しかし、今度は何も起こらない。
状況がいまいち呑み込めず、望は苦々しい顔で眉をひそめた。
「変化なしか」
「望くんと愛梨ちゃんが、ゲーム内でも入れ替わる現象。どうして、こんなことが起こったのかな」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。俺も、そして愛梨にも分からないみたいだけど、答えを探す努力はするからな」
「……うん。望くん、ありがとう」
顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。
望は深呼吸をすると、元に戻ったことを確認するように身体をほぐして両手を伸ばした。
「とにかく、有達のところに行こう。もとに戻ったことを伝えないとな」
「うん」
手を差し出してきた望の誘いに、花音は満面の笑顔で頷いた。
『愛梨ちゃん、帰りは一緒に手を繋いで帰ろう』
『……う、うん』
ショッピングをしている最中に交わした花音と愛梨の会話。
愛梨と交わした約束を、望は顔を赤らめながらも律儀に守ってくれている。
花音は微笑むと、今日の思い出を心の中に仕舞う。
ーー望くん、愛梨ちゃん、ありがとう。
それは、三人だけの大事な約束だった。
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