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留菜マナ
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第ニ百九十二話 錯落たる幻想⑦

公開日時: 2021年7月8日(木) 16:30
文字数:1,282

有は嫌な予感がしていた。

早く『アルティメット・ハーヴェスト』と合流しなくてはいけない。

だが、賢達によって、望達の動きは封じられている。


「有様。『レギオン』の包囲によって、身動きが取れなくなってきています」

「プラネットよ、分かっている。徹に新たな行き先のメッセージを送ってほしい」


モンスターに拳を振り下ろしたプラネットの戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。

だが、有達の視界は既に、『レギオン』のギルドメンバー達によって囲まれていた。


「プラネットよ、頼む」

「はい、有様」


有の指示に、プラネットは恭しく礼をする。

メッセージは、プレイヤー同士を繋ぐ通信手段だ。

プラネットが半透明のホログラフィーを表示して、徹に向けて文字を入力し、送信する。

プラネットによって、メッセージが徹へと送信される。

その手際を確認した花音は胸に抱える不安を口にした。


「お兄ちゃん、今度はどこに行ったらーー」

「妹よ、分かっている。よし、この場で転送アイテムを使うぞ」


花音の悲痛な叫びに呼応するように、有は決断した。

正確には決断を強いられた。

再び、転送アイテムを使って、遠距離へと移動する。

敵に位置を把握されるまでには、僅かに時間があるだろう。

その間に『アルティメット・ハーヴェスト』と合流を図るしかない。


「よし、この場から離脱するぞ」

「うん、勇太くん達も早く!」

「まあ、『アルティメット・ハーヴェスト』は僕達がここを離れたと分かれば、すぐに追いかけてくるだろうからな」


有の指示に、花音が勇太達に声をかけ、奏良は渋い顔で承諾した。


「おじさん、おばさん、行くぜ!」

「ああ。このままではジリ貧だ。一旦、体勢を立て直そう」

「ええ」


勇太は大剣を柄に戻すと、リノアの両親とともに望達のもとを目指して駆け出した。

全員揃った望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、今度は『ネメシス』のダンジョンの前にいた。


「「徹!」」


望とリノアが視線を向けた先には、かなめ達と応戦している徹達、『アルティメット・ハーヴェスト』の姿があった。


「望、無事だったんだな!」

「ああ、徹達も大丈夫か?」

「うん、徹達も大丈夫?」


徹の安堵の吐息に、望とリノアもまた、徹達の安否を気遣う。


「……ここが正念場だな」

「そうだな」

「そうだね」


徹の決意に、望とリノアは躊躇うように応える。


「今度こそ、絶対にリノアを元に戻してみせる! だから、ここから先には行かせない!」

「……勇太くん、懲りないな」


勇太は大剣を見据えると、改めて追いかけてきた賢達へと向き合った。

勇太が今、対峙するべきは、賢達、『レギオン』のギルドメンバー達を抑えることだ。

そして、賢達への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。


「俺はここでーーこの地で、決着をつけたい!」

「はい。『カーラ』のギルドマスターは転送アイテムで移動した影響で、モンスターに対して光の加護を行っていません。今がモンスターを倒すチャンスだと思います」


断定する形で結んだ勇太の申し出に応えるように、プラネットは笑顔で祝福した。

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