兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第四十一話 星空のプラネット⑥

公開日時: 2020年11月22日(日) 07:00
文字数:1,488

「いらっしゃいませ」


宿屋に入った望達を、NPCの店員が応対する。

王都、『アルティス』の宿屋は盛況で、多種多様な装備を着込んだプレイヤー達が血気盛んに話し合っていた。

自身が所属するギルドや街中にある宿屋などは、絶対不可侵のエリアだ。

街中やフィールド上と違って、安全が保証されている。

一階は宿屋の受付と酒場で、二階以降は宿屋の部屋になっていた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


望達が席に着いてしばらくメニューを見ていると、NPCの店員が注文を聞いてくる。


「どうするかな」


望が思い悩んでいると、腕を組んだ有はとんでもないことを口にした。


「よし、ケーキ全種類制覇するぞ!」

「お兄ちゃん、私もケーキ全種類制覇するー!」

「ケーキ全種類制覇!?」


有と花音の突拍子のない注文を聞いて、望は呆気に取られてしまう。


「お待たせ致しました」

「お兄ちゃん、すごく美味しそうだよ!」


やがて、注文したケーキが全て並べられると、花音が両手を前に出して、水を得た魚のように目を輝かせる。

その様子を傍目に、有の父親は早々に切り出した。


「有、これからどうするんだ?」

「ここなら、他のプレイヤー達の噂話や情報が入ってくるからな。新しいクエストの噂、そして仲間に出来そうなプレイヤーを探ってみるつもりだ」


有の父親の疑問に、有は淡々と答える。


「カリリア遺跡の件、聞いたか?」

「ああ。特殊スキルの使い手がいる上位ギルドが、昨日のカリリア遺跡の限定クエストを達成したんだよな」


望達が耳を傾けると、周囲のプレイヤー達がグループごとにテーブルを囲み、雑談に興じていた。

モンスターの情報や、昨日のカリリア遺跡のクエストについての噂、ダンジョンで手に入れた武器の自慢、あるいは現実での話を持ち込み、会話に花を咲かせている。


「何だか、俺達、すごい有名人になったみたいだな」

「特殊スキルの使い手の存在は、いろいろな意味で周囲の意識を引き付けているからね。それにカリリア遺跡のボスを倒したギルドは、高位ギルド以外では『キャスケット』だけだから、余計に注目されているんだろうね」


望が顔を片手で覆い、深いため息を吐くのを見て、有の母親は気遣うように声をかける。


「『星詠みの剣』、欲しかったなー」

「伝説の武器、どこのギルドが手に入れたんだったっけ?」

「高位ギルド、『レギオン』だよ」

「なっーー」


プレイヤー達の予想外な議論に、望は耳を疑った。

望は思わず、そのまま、立ち上がりそうになって、自分で自分の手を掴むことで抑え込む。

望は驚いた様子で、有に疑問を投げかけた。


「有。伝説の武器は、『レギオン』が手に入れたのか?」

「お兄ちゃん。伝説の武器は、ニコットちゃん達が手に入れたの?」

「ああ、望、妹よ。クエスト達成の報告をした際に、運営に確かめたから間違いない」


血相を変えて聞いてきた望と花音の姿に、有は不快感を隠すことなく眉をひそめる。


「奏良は、あの時、徹と会っていたんだよな」

「……ふん」


望が軽い調子で訊くと、奏良は不満そうに目を逸らした。


「僕の行き先に、あいつがいただけだ」


奏良は素っ気なく答えると、苦悶の表情を浮かべる。


「高位ギルド、『レギオン』か……」

「はあはあ……。安全領域、到達!」


望達が更なる情報を探っていると、突如、少女が宿屋に駆け込んできた。

ぱっちりとした青水晶のような瞳に、透明感がある白い肌。

そして、絹のような亜栗色の長髪の頭上に、ケモミミを生やしている。

見た目は、どこにでもいるような普通の少女だった。

だが、ニコットと同じように、彼女の頭上に生えたアンテナのような不可思議なものを前にして、望達は確かな違和感を覚えたのだった。

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