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留菜マナ
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第百七十話 君に叶わぬ恋をしている⑥

公開日時: 2021年3月7日(日) 16:30
文字数:1,599

「ど、どういうこと? もしかして、『カーラ』の人達は、私達を尾行していたの?」

「そうみたいだな」


花音が戸惑ったように訊くと、望は顎に手を当てて、真剣な表情で思案した。

その時、『カーラ』の集団の後方から、一筋の殺気が放たれる。


「そこです!」


しかし、その不意討ちは、プラネットには見切られていた。

プラネットは反射的に飛んできたダガーを避けると、その方向に向かって電磁波を飛ばした。


「ーーっ」


初擊の鋭さから一転してもたついた襲撃者は、電磁波の一撃をまともに喰らい、苦悶の表情を浮かべる。


「喰らえ!」


そこに、奏良の銃弾が放たれた。

弾は寸分違わず、襲撃者に命中する。


「敵意確認。指令を妨害されたことにより、臨戦態勢に入ります」

「ニコットちゃん!」


急速に反転する攻防を前にして、花音は大きく目を見開いた。


「有様。シルフィ様によって、彼女が放っていた電磁波の発生が途切れました。ですがーー」

「ああ。恐らく『カーラ』のギルドマスター、吉乃かなめによって、シンクロは再開されるだろう」


プラネットの躊躇いに、有は思案するように視線を巡らせる。


「ダンジョン脱出用のアイテムを使用して、この場所から離脱することはできませんでしょうか?」

「プラネットよ、残念だが不可能だ。今回も、ダンジョン脱出用のアイテムなどは容易に使用させてはもらえないようだ」


プラネットの申し出に、有は苦々しく唇を噛みしめた。

有の指摘どおり、『カーラ』のギルドメンバーの魔術のスキルの使い手達は、転送アイテムなどを使用不可能にする魔術を練り上げている。

とんでもなく、複雑に編み込まれた魔術の障壁だ。

恐らく、ダンジョン脱出用のアイテムを使っても、障壁に弾き返されてこの洞窟から出られないだろう。

有は窺うように、望に視線を向ける。


「だが、思惑どおり、望とリノアを強制的に会わせようとしてきた。なら、それを利用して、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達に、リノアを取り戻してもらおうと思っている」

「それまでの時間を稼ぐ必要がありますね」

「プラネットよ、その通りだ」


プラネットの率直な意見に、有は首肯した。


「どうすればいいんだ?」


様々な思惑が交差する中、周囲に視線を巡らせた望の顔には、はっきりと絶望の色が浮かんでいた。


「蜜風望、そして、椎音愛梨。女神様の完全な覚醒のために、おまえ達を頂きます」

「…………っ」


かなめは前に出ると、あくまでも事実として突きつけてきた。

洞窟内にいた『カーラ』のギルドメンバー達全員が、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。


「ーーっ」


望が突破口を開くためにかなめ達に攻撃を仕掛ければ、恐らく位置座標をずらされたリノアもまた、有達に同じ攻撃を加えることになる。


仲間を救う力を得たはずなのに、その力で逆に仲間を傷つけてしまうかもしれない。


状況を覆る力を得ているとはいえ、望が今、この場で蒼の剣を振るえば、危機的な状況に陥りかねない。

望達とかなめ達による、隠しようもない戦意と敵意。

交錯する視線。


「お兄ちゃん、これからどうしたらーー」


予想外の出来事を前にして、花音が疑問を口にしようとした瞬間ーー


「リノアを返せーーーーっ!」


響き渡ったその声に、望達は大きく目を見開いた。


『フェイタル・レジェンド!』


勇太は起死回生とばかりに、大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、かなめを襲う。


「かなめ様!」

「必要ありません」


片や、隼達が進み出るが、かなめは無機質な口調で制した。


『我が愛しき子よ』

「ーーっ」


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の光の魔術のスキルを発動させた。

望の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。


『我が願いを叶えなさい』

「ーーっ!」


勇太は一片の容赦もない大剣の一振りを、かなめに浴びせられなかった。

金属と金属が弾きあう音。

慮外の一撃を防いだのは、かなめではなく、突如、リノアとともに姿を現した賢だった。

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