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留菜マナ
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第ニ百ニ十三話 久遠の鳥籠③

公開日時: 2021年4月28日(水) 16:30
文字数:1,627

「切りがないな」


奏良は威嚇するように、『カーラ』のギルドメンバー達に向けて、連続で発泡する。

風の弾が『カーラ』のギルドメンバー達の身体に衝突し、大きくよろめかせた。


「このままでは、『サンクチュアリの天空牢』から脱出できないな」


ロビーへの道を見据えながら、奏良は事実を冷静に告げた。


「奏良くん、奥の手とかないの?」

「恐らく、この先に『カーラ』のギルドマスター達が待ち構えているはずだ。それまでに、トラップをあらかた解除する必要あるだろうな」


花音が恐る恐る尋ねると、奏良は自分と周囲に活を入れるように答える。

有は敵の少ない方向に駆け出すと、ロビーへと視線を注いだ。


『カーラ』のギルドマスターが付与してくる『再生能力』。

不死のように再生を繰り返すモンスター達に囲まれれば、『サンクチュアリの天空牢』から脱出することは過酷な状況へと追い込まれるだろう。

今のままでは、埒が明かないな。

この状況を打破するためには、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と合流して混戦状態に持ち込むしかないだろう。


一刻の猶予もならない状況の中、有はそう決断する。


「望、奏良、プラネット、徹、勇太、リノア、妹よ、このまま、『カーラ』のギルドマスターがいると思われるロビーに行くぞ! 望よ、ロビーにたどり着いたら、『カーラ』のギルドマスターの目を誘導してほしい」

「ああ、分かった」

「うん、分かった」


有の指示に、望は同じ言動を繰り返すリノアの腕を引いて、ロビーへと向かった。

次々と、四方八方から『カーラ』のギルドメンバー達が襲いかかってくる。


「行きます!」


裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。


「はあっ!」

「ーーくっ!」


気迫の篭ったプラネットの声が響き、行く手を遮る『カーラ』のギルドメンバー達を次々と爆せていく。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように『カーラ』のギルドメンバー達へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、『カーラ』のギルドメンバー達は怯んだ。

その隙に、望達は疾走し、ロビーへと向かう。


「あと少しだ!」

「あと少しね!」


道中、数多くの交戦を経て、目的のロビーがようやく望とリノアの視界に入った。


「残念ですが、ここから出すわけにはいきません」


その時、凛とした声が通路内に響き渡った。

望達が視線を走らせると、『カーラ』のギルドマスターである少女ーーかなめが無感動に望達を見つめている。


「お待ちしておりました」

「あの人は、『カーラ』のギルドマスター……!」


かなめの意味深な微笑みに、後ずさった勇太は困惑したように驚きの表情を浮かべる。


「マスター。さらに、後方からモンスターが複数、出現するのを感知しました」

「『カーラ』が、新たに喚んだモンスターか。もはや、ここを突破するしか道はなさそうだな」


プラネットの警告に、奏良は不満そうに前方から視線を逸らした。


「『カーラ』のギルドマスターの目を誘導する方法か……」

「『カーラ』のギルドマスターの目を誘導する方法……」

「魔術を使われる前に立ち回るしかないかもしれないな」


望とリノアの思案に応えるように、徹は考え込む仕草をした。


「ここまでようこそ、『キャスケット』の諸君」

「「なっ!」」


鋭く声を飛ばした望とリノアは、背後に立つ信也達の存在に気づいた。

信也を先頭に、全員が白いフードを身につけ、それぞれの武器を望達に突きつけてくる。


「いつから、背後に回られていたんだ?」


奏良が警戒するように周囲を見渡すと、いつの間にか、『カーラ』のギルドメンバーであろう者達が望達を囲っている。

メンバー全員、気配を消していたためか、望達はこの時まで背後にいた彼らの存在に気づかなかった。


「ーーこいつら、いつの間に?」


目の前の不穏な光景に、勇太の背中を嫌な汗が流れる。

しかし、勇太の動揺をよそに、彼女達は強固な防衛線を築き上げていた。

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