「何とかなったか……」
ボスモンスターを消滅させた奏良は、大きく息を吐いた。
奏良はインターフェースを使い、ステータスを表示させると、自身のレベルの上昇と新たなスキル技を覚えたことを確認する。
「わーい! お兄ちゃん、愛梨ちゃん、奏良くん、大勝利!」
「……っ」
これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が愛梨に抱きついた。
花音の突飛な行動に、愛梨は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。
「奏良よ、やったな」
「ああ。愛梨のおかげだ」
有のねぎらいの言葉に、奏良は恐れ入ったように答えた。
ボスモンスターを難なく倒してしまった凄まじい力ーー特殊スキルの力の片鱗を垣間見たような感覚。
奏良は、特殊スキルの底知れない力を改めて実感する。
「お兄ちゃん、愛梨ちゃんのこと、どうしたらいいのかな?」
「望に戻る気配はなさそうだし、とにかく、このままギルドに連れて帰るしかないな」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
ボスモンスターを倒した場所に、ボスモンスターを討伐した証である骨とダンジョン脱出用のアイテムが転がっていた。
ボスモンスターのドロップアイテムである。
有がアイテムを注視すると、ウインドウが浮かび、アイテムの情報テキストが表示された。
「心配するな、妹よ。望から、愛梨についての事情は聞いている。それにギルドに戻れば、報酬も手に入る。そうすれば、転送アイテムを用いて、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドに赴くことができるはずだ。望と愛梨の入れ替わりに関して、何か分かるかもしれない」
「……うん。私、愛梨ちゃんに、私達のギルドを案内してあげたい」
どこまでも熱く語る有をちらりと見て、花音は今も心細そうにしている愛梨の華奢な手を取り、微かに頷いた。
有達は全く気がついていなかったのだが、そんな彼らの様子をじっと見つめている少年がいた。
「まさか、蜜風望が、愛梨と入れ替わるなんてな」
気まずそうな様子の愛梨の姿を視野に納めて、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバーである鶫原徹は意外そうに目を瞬かせる。
「蜜風望の監視をしろ、って言われたけれど、紘はこの展開を予測していたのかもな」
有達が、ダンジョン脱出用のアイテムを使って遺跡から消えるところを見届けると、徹は考え込む仕草をした。
「愛梨、心配だな。俺も急いで後を追わないとな」
徹がそう告げたその瞬間、背中に不穏な気配を感じ取る。
徹は振り返ることはせずに、ただ一言、言葉を発した。
『ーー我が声に従え、光龍、ブラッド・ヴェイン!』
「ーーっ!」
今まさに、徹に剣を振り下ろそうとしていた騎士風の青年は、突如、目の前に現れた光龍の咆哮によってそれを防がれてしまう。
金色の光を身に纏った四肢を持つ光龍。
ボスモンスターとさほど変わらない巨躯の光龍は、主である徹に危害を加えようとした青年を睥睨した。
召喚のスキル。
それは契約した幻獣や精霊、モンスターを呼び出すスキルだ。
召喚のスキルは、一度行った契約を解消することが出来ない。
だが、魔術のスキルと同じように、どれか一体、または複数と契約を結ぶことができる。
通常は、一体まででしか契約ができないプレイヤーが多いが、徹は複数、召喚の契約を交わすことができた。
徹が呼び出した光龍は、さらに身体を捻らせて青年に迫る。
「くっ」
剣を防がれたのが予想外だったのか、青年は体勢を立て直すこともできずにまともに喰らう。
しかし、光龍の更なる追撃は、駆けつけた別のプレイヤー達によって防がれてしまった。
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