兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第ニ百六十七話 唯一無二の想い⑦

公開日時: 2021年6月12日(土) 16:30
文字数:1,494

「これなら、どうだ!」

「これなら、どう!」


望とリノアの足が地面を蹴る。

前に飛び出した望とリノアに向かって、『レギオン』のギルドメンバー達が殺到した。


「「くっーー」」


細い光線のような、直線的な軌道。

剣の鋭い切っ先が、望の腕を掠める。


「まだだ!」

「まだだから!」

「ーーっ」


相手の攻撃をかわし、望とリノアは反撃に移る。

しなるように曲線を描く軌道。

それに伴って発せられる衝撃波が、『レギオン』のギルドメンバー達に回避を強いる。

しかし、それでも『レギオン』のギルドメンバー達を犇(ひし)めき合って押し寄せてきた。


「奏良よ、望達の掩護射撃を頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、望達に迫っていた『レギオン』のギルドメンバー達が怯む。


「マスター達に手出しはさせません!」


その間隙を突いて、プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を地面に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、『レギオン』のギルドメンバー達の行く手を阻むように地面が陥没していた。

そのタイミングで、賢は手筈どおりにニコットに指示を出す。


「ニコット、頼む」

「手嶋賢様、了解しました」


望達の反撃の手数を減らすために、ニコットは攻撃の手を止めず、幾つものダガーを投げつけていく。


「蜜風望達を逃がすな!」

「はっ。心得ています」


その合間に陥没した地面を修復させると、賢は『レギオン』のギルドメンバー達に指示を飛ばし、望達に追撃を放つ。


「「くっーー!」」


絶え間ない攻撃を受け続けても、望とリノアは応戦し、力の限りを尽くしながら迎撃した。

しかし、『レギオン』のギルドメンバー達の攻勢も加わり、望達の僅かな隙すらも食いつかれる。


「俺達は何とかして、望達が転送アイテムを使えるようにしないといけないな」


徹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませる。


『まずは、『レギオン』のギルドメンバー達を止める』


徹が動くのを見計らっていたように、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達がそれぞれの武器を『レギオン』のギルドメンバー達に突きつけた。


「そろそろ、開けた場所に出るみたいだ」

「そろそろ、開けた場所に出るみたい」


先頭を走っていた望が、後ろの有達に呼びかけた。

望が発した警告に、リノアもまた、同じ言葉を返す。

だが、望達の目の前に、新たなモンスター達が現れる。


「恐らく、ここで転送アイテムを使うことが最善手だろう」

「目の前には新たなモンスター、後方からは『レギオン』による追っ手。八方塞がりだな」


有の忠告に、銃を構えた奏良が肩をすくめる。


「プラネットちゃん、頑張ろうね」

「はい」


鞭を地面に叩いた花音は、最後尾に付いたプラネットに視線を向けて、喜色満面に張り切った。

道中、数多くの交戦を経て、望とリノアが示した開けた場所がようやく有達の視界に入る。

しかし、望達が足を踏み入れた瞬間、その場の空気が変わった。

その全域に、瘴気が宙に漂う。

やがて、それらが一ヶ所に積み重なり、形を成していく。


「ーーって、わっ! お兄ちゃん、すごく強そうなモンスターが出たよ!」


目の前に現れた巨大なモンスターに、花音が怯えたように有の背後に隠れる。

空に浮いたそのモンスターは、見た目だけで言えば烏賊(いか)に似ていた。

巨大な身体に、無数の触手。

圧倒的な能力が厚となって、望達の肌に突き刺さる。

それが突如、現れたモンスターの全貌だった。

モンスターの巨大さ、醜悪な形状、何より全身から醸し出している凶悪な雰囲気に、望達は圧倒され、言葉にできない恐れを感じる。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート