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留菜マナ
留菜マナ

第五十五話 あの日、あの瞬間⑧

公開日時: 2020年11月29日(日) 07:00
文字数:1,953

「光龍だと!」


突如、具現化した光龍に、『カーラ』のギルドメンバー達が不可解な顔を浮かべて警戒した。


「行け!」


光龍と骨竜が相対する中、姿を現した徹は光龍を使役する。

徹が呼び出した光龍は、身体を捻らせて骨竜へと迫った。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


虚を突かれたせいなのか、骨竜は体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。

そして、徹が動くのを見計らっていたように、メルサの森の前に次々とプレイヤーが現れた。

全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達に突きつけてくる。

恐らく、全員が『アルティメット・ハーヴェスト』の一員なのだろう。


「おのれ!」

「慌てる必要はありません」


凛とした声が、混乱の極致に陥っていた『カーラ』のギルドメンバー達を制する。

『カーラ』のギルドメンバー達の背後に控えていたその人物は、前に進み出ると身に纏っていたフードを取り払った。

紫水晶の瞳に、作り物のような繊細な顔立ち。

『カーラ』のギルドマスターである少女は、無感動に骨竜を見つめる。


「かなめ様!」

「賢様は、私達に約束してくれました。女神様のーー美羅様のご加護を」


『カーラ』のギルドメンバー達の剣幕をよそに、かなめは静かな声音で告げる。


「ならば、私達はそれに報いる限りです」


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の魔術のスキルを発動させた。


『我が愛しき子よ』


かなめと骨竜の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。

魔術のスキル。

火、水、風、光、闇。

五大元素のうち、どれか、または複数を操り、世界を変革するスキルだ。

かなめはこの内の一つ、光の魔術のスキルの使い手である。


『我が敵を滅ぼしなさい』


かなめが神々しくそう唱えると、光に包まれた骨竜は忠誠を誓うように頭を垂れた。

やがて、かなめの光の魔術のスキルによって、新たな力を得た骨竜は、相対する光龍を睥睨した。

先程、光龍から受けたダメージなどなかったように佇む骨竜を見据えて、徹は苦々しく唇を噛みしめる。


「……『再生能力』を付与させたんだな」


事態の急転を受けて、徹は状況を整理してみる。

徹達が加勢に訪れたことで、望達に集中していた『カーラ』のギルドメンバー達の戦力は分散されていた。

しかし、不利な状況に立たされているのにも関わらず、『レギオン』のギルドメンバー達は不気味なほどに動きがない。

いくら魔術障壁を練り上げているとはいえ、防衛以外の動きがないのは明らかにおかしい。


何かを企んでいるんだろうなーー。


こちらの心境を、相手側に悟られるわけにはいかない。

徹は冷静を装って、望達の戦局を視認する。


『エアリアル・アロー!』


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に、『カーラ』のギルドメンバー達が召喚したモンスター達へと襲いかかった。

HPを示すゲージは0になったものの、モンスター達はすぐに完全復活して青色の状態に戻ってしまう。

風の魔力が込められた剣で、モンスター達を薙ぎ払っていた望は、咄嗟に焦ったように言う。


「有、このままじゃ埒が明かない」

「ああ、分かっている。とりあえず、みんな、一度、回復アイテムを使ってHPを回復させるぞ!」


有は腕を組んで考え込む仕草をすると、唸り声を上げる狼型のモンスター達の様子を物言いたげな瞳で見つめた。


「奏良、プラネット、妹よ。これで少し楽になるはずだ」

「うん。お兄ちゃん、ありがとう」

「有様、ありがとうございます」

「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。『アルティメット・ハーヴェスト』が来た時に、回復アイテムを渡してほしかった」


有はモンスター達を刺激しないように近づくと、花音とプラネットと奏良に回復アイテムを放った。

プラネットと顔を見合わせて、屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせる花音と、先の戦いを見据えながら、額を押さえて途方に暮れている奏良。

三人は受け取った回復アイテムを手に戦線を離れると、そこで一息つき、回復アイテムを口に含む。

花音と奏良とプラネットは、HPを少しずつ回復させていく。

その間、望が連携攻撃を仕掛け、狼型のモンスター達の注意を引いていた。


「望くん、お待たせ!」

「状況が状況だからな。愛梨のために、全力を尽くさせてもらおう」

「マスターは必ず、お守りします」


望の代わりに、花音とプラネットが前衛に立ち、後方で奏良が風の魔術を放つ。


「望よ、回復アイテムだ」

「ああ。有、ありがとうな」


有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、望のHPは少し回復した。

望が振り返ると、光龍と骨竜は瓦礫を薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしている。


「妹よ。モンスター達は倒しても、すぐに復活するようだ。麻痺効果を付与するスキルを頼む!」

「うん!」


有の指示に、鞭を振るっていた花音が勇ましく点頭した。


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