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留菜マナ
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第百三十五話 星の古戦域③

公開日時: 2021年1月31日(日) 16:30
文字数:1,418

『キャスケット』のギルドから出て、田園通りを進んでいくと、店の立ち並ぶ通りに出た。

整然とした造りの様々な店を前にして、花音は興味津々な様子で歩いていく。


「あっ、愛梨ちゃん。ペンギン男爵さんが、お店を開いているみたいだよ。この店、入ってみようよ?」

「お店……?」


花音に呼ばれて、周囲を見渡していた愛梨は振り返る。

花音に招かれた店は、スポットナビゲーターであるペンギン男爵が営むアイテムショップだった。


「いらっしゃいませ。わたくしは、ナビゲーター兼この店のオーナーのペンギン男爵と申します。お客様のサポートを務めさせて頂きます」


店内に入った花音達を出迎えるように、目の前にペンギン男爵が現れた。

赤いリボンを付けていること以外は通常のペンギンの風貌と変わらない、スポットナビゲーターでもあるペンギン男爵はぺこりと頭を下げる。

『創世のアクリア』のプロトタイプ版では、スポットナビゲーターとしての役目を果たせないため、ショップ経営を兼業していた。


「ペンギン男爵さん、可愛いね」

「どうも」


花音が歓声を上げると、ペンギン男爵は照れたように頬を撫でる。

棚には、幾つものアイテムが並べられていた。

回復アイテム、状態異常の回復アイテム、モンスター避けのお香などの必需品から、ぬいぐるみやギルド専用のアイテム収集鞄もある。

だが、肝心の転送アイテムは置かれていない。

転送アイテムは、お店では高額で取り引きされている。

しかも、五大都市まで赴かなくては、転送アイテムの素材が全て揃うことはなかった。


「転送アイテム、ないのかな?」


花音は気落ちした様子で店内を散策していると、展示品の中に美しい二つの輝石が置かれていることに気づいた。


「あっ、愛梨ちゃん。ペンギン男爵さんのお店に、転送石があるよ! オープン記念の特別価格、『八百万ポイント』……。この間のクエストの報酬で、ぎりぎり買える額だね!」

「……綺麗」


花音の薦めに、愛梨はしばらく転送石を見つめーーやがて優しい手つきで、ガラスケースにそっと触れる。


「ペンギン男爵さんのぬいぐるみ、可愛いね」


スポットナビゲーターのぬいぐるみを発見して、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。

花音は楽しげに後ろ手を組んで、棚に並ぶ商品を見渡した。


「うーん。気になるアイテムはあるけれど、転送石を購入しないといけないから、今は買えないね」


花音は、気になる商品に向かって指を動かし、視界に浮かんだ商品名と効果、値段などを確認する。


「愛梨と買い物、いいな」

「何故、僕はいつものように、愛梨を見守っているだけなんだ」


そんな中、花音達の様子を窺っていた二人の声が揃って、店内に響き渡った。

その途端、店内に不穏な空気が流れる。


「おまえ、どうしてここにいるんだよ? 何で、愛梨達の様子を見ているんだ」

「君に話す必要はない。そもそも、それは僕の台詞だ。何故、君がここにいる?」


徹が非難の眼差しを向けると、奏良はきっぱりと異を唱えてみせた。


「俺は、紘に頼まれて、望と愛梨の様子を見に来ただけだ! それに湖畔の街、マスカットは、『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄だから、警備の意味も含めて来たんだ!」

「なっ! いつの間に、この街は、『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄下になったんだ!」


激しい剣幕で言い争う徹と奏良をよそに、花音と愛梨はお目当ての転送石のことを、有達に伝えるために店内を去っていく。

残されたのは、険悪なムードで睨み合う二人の少年だけだった。

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