このまま、ここで戦うのはまずいなーー。
徹の頭の中で警鐘が鳴る。
様子を窺っていた徹は、改めて周囲を見渡した。
『カーラ』のギルドメンバーの魔術のスキルの使い手達は、今も転送アイテムなどを使用不可能にする魔術を練り上げている。
「何とかして、リノアとともに、ここから脱出しないといけないな」
徹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませる。
「まずは、魔術のスキルの使い手達を止める」
徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、イリス達ーー『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達とコンタクトを取り始めた。
『フェイタル・レジェンド!』
「賢様!」
勇太の放った渾身の一撃。
しかし、同じ天賦のスキルの使い手達が、賢の盾になるように、勇太の前に立ち塞がる。
『『フェイタル・レジェンド!』』
「ーーっ」
天賦のスキルの使い手達が、勇太と同じ技を同時に放つ。
HPを半分以上減らされた勇太は、大きく吹き飛ばされて地面を転がった。
「勇太くん!」
リノアの父親は勇太の元へと駆け寄り、回復する。
そして、勇太の決意を助けるように、リノアの両親も攻撃を重ねていく。
「俺が勝ったら、リノアは返してもらうからな」
「なら、私が勝利した暁には、蜜風望達には美羅様のシンクロに協力してもらおうか」
勇太と賢は、互いの信念を賭けて向かい合った。
これに対して、『カーラ』の者達は、賢とかなめへの防御を固める。
「よーし、行くよ!」
その布陣を見た花音は、即座に判断した。
花音は裂帛の気合いと同時に、賢達ではなく、その周囲を固める『カーラ』のギルドメンバー達の元へと動く。
鞭を振るい、疾風の如き速さで距離を詰める。
花音は、ギルドメンバー達に反応させることさえ許さず、先制の一撃を叩き込むことに成功した。
一撃を叩き込むと即座に、囲まれないよう立ち回る。
「ーーっ」
その舞い踊るような花音の連撃に、『カーラ』のギルドメンバー達は躊躇し、翻弄されてしまう。
しかし、花音の防衛をすり抜けて、『カーラ』のギルドメンバー達は有達へと迫った。
「お兄ちゃん、お願い!」
『元素復元、覇炎トラップ!』
花音の合図に、有は襲いかかってきた『カーラ』のギルドメンバー達に向かって、杖を振り下ろした。
有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。
「くっ!」
『カーラ』のギルドメンバー達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、炎に包まれた。
行く手を遮られた『カーラ』のギルドメンバー達の動きが止まる。
「洞窟の入口までの道を切り開くのは、なかなか厳しそうだな」
有の切羽詰まった声は、ぶつかり合った勇太と賢の剣戟に吸い込まれて消えた。
「くっ!」
勇太が波状攻撃を放てば、賢は手にした剣で軽々と全ての連撃を受け止めた。
だが、勇太とリノアの両親は負けじと攻撃をさらに繋いでいく。
しかし、勇太の緊密な連携を前にしても、賢は重厚な剣で軽々と対応しきった。
『……お父さん、お母さん。私、女神様に生まれ変われるように頑張るね。だから、笑って、泣かないで。私はどんな姿になっても、お父さんとお母さんの娘だから』
不意に、リノアの父親の脳裏に、あの日の娘の笑顔が蘇る。
それは、彼らが洗脳されていた頃の家族の風景。
リノアに『美羅になること』を強要していた、歪なーーだが、確かに存在していた在りし日の光景。
「リノア……」
リノアの父親は蚊が鳴くような声でつぶやいて、自分の袖を強く握りしめた。
プロトタイプ版のみに存在するダンジョン、『シャングリ・ラの鍾乳洞』。
そして、『サンクチュアリの天空牢』。
危険な戦いに身を投じる事と引き換えに、リノアを救うことができる。
奇縁によって出会った、望達に与えられたリノアを救うための機会。
それは、現実世界さえも侵食していく、情けも容赦もない戦いへと発展していった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!