「美羅の特殊スキルは、全ての人々にご加護を与え、一部の者達に神のごとき力ーー『明晰夢』を授ける力か」
「美羅の特殊スキルは、全ての人々にご加護を与え、一部の者達に神のごとき力ーー『明晰夢』を授ける力」
望とリノアは瞬きを繰り返しながら、かなめが語った美羅の特殊スキルの内容を思い出してつぶやいた。
『蜜風望。美羅様の真なる力の発動には、君と椎音愛梨の力が必要だ』
望の脳裏に、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』で告げられた賢の言葉が蘇る。
「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、俺達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、彼女は目覚め、俺達と同じ動作をするんだな」
「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、私達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、彼女は目覚め、私達と同じ動作をするのね」
紘が語った真実を、望とリノアは噛みしめるように反芻する。
ただ、今は、濁流みたいに押し寄せてくる感情に耐えるだけで精一杯だった。
特殊スキル。
世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。
そして、全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。
世界の根源へと繋がる話に、奏良はふと座りの悪さを覚える。
「美羅を消滅させる方法。『レギオン』に関わる組織が引き起こしたとされる失踪事件を要に、美羅の力は仮想世界でも現実世界でも脅威を振るっている。久遠リノアを世間の目から遠ざけるには、やはりあの総合病院から出す必要があるんじゃないのか?」
「まずは久遠リノアから美羅を解放させる事によって、美羅という『救世の女神』を愛梨のデータの集合体に戻す必要がある。そのためには久遠リノアの意識が必要だ」
予測出来ていた奏良の言及に、紘は訥々と特殊スキルの力によって知り得ていることを語る。
紘の淡々とした内容、しかし望達には額面以上の重みがあった。
望は改めて以前、徹が口にした言葉を脳内で咀嚼する。
『『レギオン』か、『カーラ』の者を、美羅の情報を引き出すために捕らえるか。可能なら、重要な情報を持ち合わせている吉乃信也辺りを捕らえる事が出来たらいいよな』
信也を捕らえるのか、それとも別の者にするのか。
望はこの状況を少しでも早く改善すべく思考を巡らせる。
「リノアの意識を取り戻す手段、そして『レギオン』と『カーラ』の管理下にある総合病院、どちらも吉乃信也が鍵になっている。なら、俺は吉乃信也を捕らえて情報を聞き出した方がいいと思う」
「私の意識を取り戻す手段、そして『レギオン』と『カーラ』の管理下にある総合病院、どちらも吉乃信也が鍵になっている。なら、私は吉乃信也を捕らえて情報を聞き出した方がいいと思う」
不可解な空気に侵される中、望とリノアは慄然とつぶやいた。
「えっ? 吉乃信也さんを捕らえるの?」
望の発案に、花音は驚きの表情を滲ませる。
信也は当初の予定どおり、美羅から授かった『明晰夢』の力を行使して、望と愛梨を捕らえる腹積もりだ。
なら、逆にそれを利用すればいいという望の結論は有は突き動かす。
「望よ、『レギオン』と『カーラ』の者ではなく、吉乃信也そのものを狙うというのか」
有は信也を捕らえることの難しさを実感しながらもその有効性にかける。
信也を捕らえることができれば、重要な情報が手に入るはずだ。
機械都市『グランティア』に赴くことも可能になるかもしれない。
他の誰でもない、この戦いを指揮している信也を捕らえる。
望のその決断はこの戦いを終着点へと収束していく要になった。
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