「愛梨ちゃん達、大丈夫かな?」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。愛梨の側には、椎音紘達がいる。だから、大丈夫だ」
「望くん、ありがとう」
望の包み込むような温かい言葉が、花音の心に積もっていた不安を散らしていった。
望は意図的に笑顔を浮かべて続ける。
「それに、俺達、特殊スキルの使い手の側には、花音達もいるからな」
「うん」
顔を上げて花咲くように笑う花音の姿を、望はどこか眩しそうに見つめた。
「僕も、愛梨は無事だと思う。椎音紘の特殊スキルによって護られているからな」
「そうだね」
奏良の確信に近い推察に、花音は穏やかな表情で胸を撫で下ろす。
特殊スキルの使い手がいるギルドのメンバー達は、特殊スキルによる世界改変の影響を受けない。
だが、それ以外の人々は、何かしらの影響を受けてしまう。
「だが、美羅と同化したリノアは今も、『救世の女神』として祭り上げられているだろうな」
「……そうだな」
奏良の懸念に、望は窮地に立たされた気分で息を詰める。
明晰夢の中で見た、理想が体現された世界。
それは、リノアを犠牲することによって成り立つ世界だ。
美羅を宿したリノアは、虚ろな生ける屍になっている。
そして、それは『レギオン』と『カーラ』を止めない限り、続いていくのだろう。
「『創世のアクリア』のプロトタイプ版。プロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っている。厄介だな」
状況を踏まえた有は、改めて思考を加速させる。
新興に当たる高位ギルドであり、『レギオン』の傘下のギルドである『カーラ』。
そして、特殊スキルの使い手達とシンクロさせて、美羅と同化したリノアの真なる力の発動を狙う高位ギルド、『レギオン』。
『アルティメット・ハーヴェスト』の協力があるとはいえ、全てを判断し、対処していくのは困難極まりないだろう。
有は表立って、現実世界を改変し、ダンジョン調査の妨害に乗り出してきた二大高位ギルドの情報を改めて吟味した。
「有、『ネメシス』で生成する必要があるアイテム名は『ネメシス・アメジスト』だ。『這い寄る水晶帝』で手に入れることができる素材『アメジスト』、それに『ネメシス』のダンジョンで手に入る素材『ネフローゼ』を合わせることで作ることができる」
奏良は腕を組んで考え込む仕草をすると、有を物言いたげな瞳で見つめる。
『アメジスト』の素材は手に入らなかった。『ネメシス』のダンジョンに行く前に、他で調達する必要があるな」
「奏良よ、分かっている」
奏良の懸念に、有はこの状況を少しでも早く改善すべく思考を巡らせる。
闇雲に素材の捜索を続けても、望達の負担が大きくなるだけだ。
プロトタイプ版の運営は、『レギオン』と『カーラ』が担っている。
『這い寄る水晶帝』に赴いても恐らく、その素材を持っているモンスターは出てこないだろう。
肝心の『アメジスト』の素材は、どこで手に入ればいいのかーー。
有が頭を悩ませても、思考の方向性はなかなか定まりそうになかった。
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