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留菜マナ
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第三百五十五話 過ぎ去りし透光⑥

公開日時: 2022年8月19日(金) 16:30
文字数:1,439

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った麻痺の痺れによって、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は身動きを封じられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。

『カーラ』が予め呼び出していた数十匹のモンスター達のライフが減り、消滅していく。

しかし、花音の防衛をすり抜けて、モンスター達は望達へと迫った。


「お兄ちゃん、お願い!」

『元素復元、覇炎トラップ!』


花音の合図に、有は襲いかかってきたモンスター達に向かって杖を振り下ろした。

有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。

モンスター達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、炎に包まれた。

だが、熱に強いモンスター達はその炎を振り払い、襲いかかってくる。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、モンスター達を地面へと沈ませる。


「有様。前方の敵を引き付ける役は、私にお任せ下さい。行きます!」


裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。


「はあっ!」


気迫の篭ったプラネットの声が響き、モンスター達は次々と爆せていく。

花音達の攻撃により、モンスター達の数は半分近くまで減った。

そのタイミングで、花音は周囲を警戒しながら望に尋ねた。


「ねえ、望くん。また、あの時のように、リノアちゃんがいる時でも蒼の剣に特殊スキルの力を込められないかな?」

「試してみるか。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」

「試してみるね。ーー『魂分配(ソウル・シェア)』!」


花音の疑問に応えるように、望とリノアは自身のスキルを口にする。

だが、何も起こらない。

状況がいまいち呑み込めず、望とリノアは苦々しい顔で眉をひそめた。


「変化なしか」

「変化なしね」

「そうなんだね」


赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。

すると、望とリノアはそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。


「花音。俺の想いに愛梨が応えた場合、愛梨と入れ替わる。そして逆に、愛梨の想いに俺が応えた場合、蒼の剣が力を増すことになる。それは、リノアがいる時でも変わらないはずだ」

「花音。私の想いに愛梨が応えた場合、愛梨と入れ替わる。そして逆に、愛梨の想いに私が応えた場合、蒼の剣が力を増すことになる。それは、私がいる時でも変わらないはずだから」

「……うん」


望とリノアの説明を聞いて、花音は勇気をもらったように肯定する。

望とリノアは一呼吸置いて、静かに互いの剣を構えた。


みんなを守る力がほしいーー。


それは、望自身のスキルを使えば叶うと信じている。

望とリノアは目を閉じて、愛梨の想いに応えようとした。

愛梨の想いに応える術はないのかもしれない。

今、この場で、特殊スキルを使うことができるとは限らない。

それでも、望は諦めなかった。


『……みんなの力になりたい』


不意に愛梨の声が聞こえた。

それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の想い。


「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」

「うん、そうだね。私はーーいや、私達は諦めない!」


顔を上げた望とリノアは、胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。

望とリノアは前を見据えて、この世界で、たった一つだけの自身のスキルを口にする。


『『魂分配(ソウル・シェア)!』』


そのスキルを使うと同時に、それぞれの剣からまばゆい光が収束する。

二人の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。

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