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留菜マナ
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第三百九話 夢の宿り木⑧

公開日時: 2021年9月24日(金) 16:30
文字数:1,311

自身を守る防壁を打ち破られ、かなめは完全に無防備な状態に追い込まる。


「かなめ!」


賢が加勢に向かおうとする。

その間隙を突くように、勇太と徹が使役する光龍が間合いを詰めてきた。

自分の想定を越える望達の団結力にーー賢は口元を綻ばせる。

賢達が持っていた既知というアドバンテージは引き剥がされ、ここから先はどんな展開が待っているのか分からない。

だが、それでも賢は美羅を求める。


「美羅様……」


身を焦がすあらゆる感情を呑み込んで、賢は愛する女性の名前を口にした。

頑なに事実を拒む賢は、彼女が存在する理想の世界だけを求め続ける。


「君達がいくら拒んでも……私達は決して諦めることはない」


狂おしいほどの愛を込めて、賢はリノアにーーリノアに宿る美羅に手を伸ばす。

しかし、賢の手がリノアに届く前に、勇太は接近していた。


「リノアは絶対に守ってみせる!」

「望達は渡さないからな!」

「くっ、君達も懲りないな」


勇太と徹が使役する光龍は間断なく攻撃を繋いでくる。

卓越な剣戟を見せながらも、賢の激情は激しく渦巻いていた。


「はあっ!」


その隙を突くように、高く跳躍した勇太の大剣が賢を吹き飛ばす。

HPを示すゲージは減ったものの、いまだに青色のままだ。

しかし、賢が着地を迫られた場所は、かなめがいる位置。


「くっ……!」


賢は着地点を変えるために、空中で体勢を整える。

その間に、勇太の後続から突出した『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達は、『レギオン』のギルドメンバー達の動きの妨害に回った。


「「これで決める!」」


それを見計らったように、望が構えた蒼の剣からまばゆい光が収束する。

蒼の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。

リノアの持つ剣にも、蒼の剣と同じ効果が発動していた。


「蒼の剣、頼む!」

「蒼の剣、お願い!」


花音達の前に進み出た望とリノアは、それぞれの剣を構える。

流星のような光を放って、『レギオン』のギルドメンバー達の流れるような動きを避ける。

そして、望とリノアは光の魔術を放ってきたかなめの一撃をもいなした。


「これでどうだ!」

「これでどう!」


一気に距離を詰めた望とリノアはそのまま、虹色の剣を横に薙いだ。

光の連なりが、剣筋とともに閃く。


「……っ。賢様、申し訳ありません」


新たな光の魔術の防壁の生成は、もはや間に合わない。

自身を護る術がないかなめは、望とリノアの猛攻をなす術もなく食らうしかなかった。

望達の攻撃を受けたその瞬間、かなめは体力を全て失う。

そのまま、彼女はこの仮想世界から消えていった。


「私の力を利用して、かなめを倒す。つまり、私の着地点を利用するという意味合いか」


賢は悔やむように懺悔を口する。

あの日の五人の関係を崩壊させた忌まわしき事故が、まるで昨日のことのように追憶された。


「何故、だ……。何故、君達は私達の望みを拒む……。理想の世界を否定する……」


一毅と美羅が死んだ時の記憶は未だ、残酷なほど鮮明だ。

彼らの死にもっとも嘆き悲しんだのは賢だった。


「理想の世界なんてーー定められた世界なんて必要ない! 世界は自分達の手で切り開くものだ!」


望達の戦いぷりが、勇太の心に火を点ける。

露骨な戦意と同時に、勇太は一気に賢との距離を詰めた。

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