兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第六十一話 天空の回廊⑥

公開日時: 2020年12月2日(水) 07:00
文字数:1,635

「愛梨の特殊スキルが込められた弾丸に耐える存在か。厄介だな」


常軌を逸した出来事を前にして、奏良は警戒するように周囲を窺う。

奏良が放った弾丸には、自身の風の魔術の付与と、愛梨の特殊スキルが込められている。

それは、森周辺を消滅させてしまうほどの脅威的な威力の弾丸だ。

だが、そのようなーーとてつもない威力の弾丸を何発も喰らっても、ニコットはぎりぎりのところで耐え切ってみせた。


ーーただの機械人形型のNPCではないのかもしれないな。


転送アイテムによって姿を消したニコットに対して、奏良の瞳には複雑な感情が渦巻いていた。

そんな中、花音は目の前の光景に終始、言葉を失っていた。


「お兄ちゃん。メルサの森が……」

「妹よ、心配するな。ダンジョンなどは崩壊しても、修復可能になっている。時間はかかるが、また元の森に戻るだろう」

「……うん」


変わり果てた森の跡地を見て、花音は沈んだ表情でつぶやいた。

不安そうな妹を励ますように、有は苦々しい顔で眉をひそめる。


「メルサの森に、モンスター以外、いなかったのが不幸中の幸いだな」


メルサの森のマップを表示させた有は、沈痛な表情で考え込む。

メルサの森の修復には、かなりの時間を要する。

それまでは、メルサの森のクエストを受けることはできないだろう。

もっとも、再び、メルサの森のクエストを受けるためには、複数の高位ギルドに囲まれたこの状況を乗り切る必要があった。


「愛梨様、大丈夫でしょうか?」

「……うん」


プラネットの気遣いに、電磁波の支配から解放された愛梨は噛みしめるようにそう答えた。

激しい攻防から一転、張りつめたような静寂に空間が支配される。

痛いような沈黙。

だが、そんな静謐さを打ち破るように、空から一筋の剣が降ってきた。


「青い剣?」


狙い澄ましたように、剣は有達の目の前に突き刺さる。


「……あっ」


小さく声を漏らし、愛梨は不思議そうに剣を見つめた。


「お兄ちゃん。もしかして、これってーー」

「ああ。メルサの森に潜んでいたボスモンスターのドロップアイテムの一つ、『蒼の剣』だな」


花音の疑問に、有は感情のこもった声でそう断言する。


「恐らく、先程の奏良の攻撃で、ボスモンスターを討伐したのだろう」


森の跡地を吟味しながら、有は淡々と告げた。


「空を飛ぶボスモンスター、一本釣りの要領で倒せたのかな?」

「どんなタイプのモンスターだったのでしょうか?」


意気消沈する花音と同様に、プラネットは名残惜しそうな表情を浮かべると、森の跡地を見つめる。


「タイプ? ーーあっ、風属性の魔術による武器への付与!」


その時、不意の閃きが、花音の脳髄を突き抜ける。

蒼の剣を眺めていた花音が、興味津々な様子で訊いた。


「ねえ、愛梨ちゃん。この剣にも、奏良くんの弾丸のように、愛梨ちゃんの特殊スキルを込められないかな?」

「……この剣にも?」


花音のどこか確かめるような物言いに、愛梨は不思議そうに小首を傾げる。


「妹よ、何をするつもりだ?」

「ねえ、お兄ちゃん。愛梨ちゃんの特殊スキルが込められた剣を、望くんが使ったりすることはできないかな?」


有の疑問に、花音は意図して笑みを浮かべてみせた。


「なるほど。望が、愛梨の特殊スキルが込められた『蒼の剣』を使えたら、骨竜を倒せるかもしれないな」


花音の言い分に、有は納得したように頷いてみせる。


「奏良よ。愛梨から望に戻った後、銃弾はどうだったのか?」

「望に戻った後はすぐにログアウトしてしまったから分からないが、再ログインした時は通常の弾丸だったな」

「……そうなんだね」


曖昧に言葉を並べる奏良に、花音は不満そうな眼差しを向ける。

だが、すぐに状況を思い出して、花音は表情を輝かせた。


「なら、少なくとも、愛梨ちゃんがいる間は、みんなでレベルアップできるね!」


てきぱきと鞭を動かし、次々と召喚されるモンスターを翻弄しながら、花音は周囲に光を撒き散らすような笑みを浮かべる。


「……うん」


そんな花音の戦う姿を見て、杖を構えた愛梨は花が綻ぶように無垢な笑顔を浮かべたのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート