「「勇太くん!」」
思わぬ紘の参戦。
信也の攻勢が抑えられた隙に、望とリノアは勇太のもとへ駆け寄った。
「厄介な状況になってきたが……逆に利用させてもらおうか」
気を引き締め直した信也は望とリノアに視線を向けると一転して、柔和な笑みを浮かべる。
『蜜風望くん。美羅様が、椎音愛梨さんに会いたがっている。変わってもらえるかな?』
「……俺は変わるつもりはない!」
「……私は変わるつもりはない!」
確信を込めて静かに告げられた信也の誘いは、この上なく望の心を揺さぶった。
『残念だ。なら、別の方法を考えるとしようか』
信也は状況を踏まえて、望達を出し抜くための方法を模索する。
「と、徹くん、これからどうするの?」
「イリス達が上空から仕掛けられるトラップを全て配置している。それと同時に避雷針と思われるトラップの解除に回ってくれているはずだ」
花音の焦ったような疑問を受けて、徹はインターフェースで表示した王都『アルティス』のマップを見つめる。
「徹よ、トラップを仕掛けるために、王都『アルティス』の街道周辺のトラップ配置場所を知りたい」
「分かった。有、頼むな」
マップデータを送った徹は少しでも安心させるように、有達の気持ちを孕んだ行動へと移す。
周囲を警戒していた勇太は、心を落ち着けるようにしてから話を切り出した。
「この街道もやっぱり、『レギオン』の手によって管理されているのか?」
「ああ、恐らくな」
勇太の懸念に、徹は素っ気なく答える。
「この街道は『アルティメット・ハーヴェスト』の管轄内だ。ただ、それでもプロトタイプ版の運営は、開発者側の『レギオン』と『カーラ』が握っているからな。何らかのイレギュラーな出来事が起きるかもしれない」
徹の胸中に様々な想いがよぎった。
「運営側の権限。つまり、事前情報だけでは対応出来ないのか」
「運営側の権限。つまり、事前情報だけでは対応出来ない」
「ああ」
望とリノアの確信に近い推察に、徹は肯定の意を込めて頷いた。
「ここで絶対にリノアを救ってみせる!」
「ああ」
「うん」
望とリノアは、大剣を掲げた勇太へと視線を向ける。
大剣の穏やかな輝きの中には、彼の強固な意思を感じさせた。
だが、信也はそこに水を入れるように戯言を口にする。
「勇太くん。君が求めている久遠リノアはもはや吉乃美羅だ。本来の久遠リノアの心は美羅にとって不純物、悍ましくも愛おしい、安らぎの毒蜜とも言える」
信也が告げた言葉は、勇太が想像していた以上に最悪の代物であった。
勇太は改めて、リノアと向き合う。
目の前にいるのはリノアなのに、まるでどこか得体の知れない相手と対峙しているような気分に襲われた。
望と同じリノアの表情が、どうしようもなくそれを証明する。
「今の彼女には君のことが分からない。それは久遠リノアから美羅を解放しても変わらない」
「……っ」
信也の断言に、勇太は苦々しく心の中だけで同意する。
今のリノアには、もう俺のことが分からないーー。
あの日、待ち望んでいたリノアとの再会は、勇太にとって悔やんでも悔やみきれないものとなった。
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