「みんな、大丈夫か?」
「みんな、大丈夫?」
望とリノアが声を向けるのは、魔術に巻き込まれた仲間達。
有達は、プラネットが張った防御のバリアによって事なきを得ていた。
「望よ、こちらは大丈夫だ」
「プラネットちゃん、すごい!」
有の言葉に同意するように、花音は両手を広げて喜び勇んだ。
「このまま、バリアを展開していてもよろしいでしょうか?」
「もちろんだ、プラネットよ」
「ありがとうございます」
有の承諾に、プラネットは一礼すると強気に微笑んでみせる。
望とリノアは腕を組んで考え込む仕草をすると、モンスターを物言いたげな瞳で見つめた。
あのモンスターの特性は、ステータス異常の無効化なのか。
もしかしたら、それを俺達に悟られないように、魔術のスキルの使い手達の力によって、今まで特性を封印していたのかもしれないな。
望が先程の賢の言葉で連想するのは、解放されたモンスターの特性によって、花音の天賦のスキルが防がれたという事実だった。
花音の鞭による天賦のスキルが有効打だと見せ掛けたその局面で、モンスターに施した封印を解く。
それは存分に望達の闘志を刺激した上で、封印を解放し、困惑させたところに追い打ちを掛ける行為。
「君が今、思考している通り、私達にはその狙いがあった」
思案に暮れていた望を現実に引き戻したのは、敵である賢の声だった。
「さあ、美羅様。特殊スキルの使い手である蜜風望を手中に収めれば、椎音愛梨を手に入れたも同然です。後は、美羅様のお望みのままに、全てを掌握するまで」
己が立案した策で翻弄する望達の様子に、賢は恍惚な表情を注いだ。
望と同じ言動を繰り返すリノアーー美羅の器となったリノアに忠誠を誓う騎士。
それは、どこか滑稽で狂気に満ち溢れた光景だったのかもしれない。
しかし、そのことを訝しむ人物は、『レギオン』のギルドメンバー達の中にはいなかった。
「有様。あのモンスターの対処が困難になりましたね……」
「その通りだ、プラネットよ。特性を解放した今のモンスターには、妹のスキルの効果は見込めないだろう」
プラネットが口にした懸念材料に、有は同意する。
断定的な事実を聞いて、花音は閃いたように言い募った。
「お兄ちゃん。だったら、別の天賦のスキルを使ったらどうかな?」
花音は即座にインターフェースを使い、ステータスを表示させると、もう一つの切り札であるスキル技を確認する。
「妹よ、どういうことだ?」
「あのね、お兄ちゃん。『レギオン』の人達が特性を封印していたのなら、また、封印返ししてしまったらいいと思うよ!」
有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。
奏良はそこで、花音が口にした思惑に気づく。
「……そうか。花音のスキル『クロス・バースト』を使えば、モンスターは封印の効果で再び、特性そのものを使えなくなる」
「なるほどな」
奏良が事実を如実に語ると、勇太は納得したように首肯する。
「封印……?」
そこでようやく、勇太は先程、賢が口にしていた詭弁に気づく。
「もちろん、君達が天賦のスキルを用いて、あのモンスターに封印を再び、施そうとしてくるのも想定済だ」
「ーーっ」
勇太の脳裏を掠める、いくつかの記憶。
彼を蝕むのは、今までの賢達の行動によって築かれ、その動向に関係付けられた忌まわしい出来事の数々だった。
「君達が行ってくることは、もはや私達には意味を成さない」
「そんなの分からないだろう!」
賢の嘲るような物言いに、勇太は大剣を振るうことで応える。
勇太は『レギオン』のギルドメンバー達による攻撃を掻い潜るように、賢の前へと突き進む。
魔術や遠距離攻撃を食らっても、構わず進んでいった。
「勇太くん……っ!」
リノアの両親は咄嗟に動こうとしたが、別の『レギオン』のギルドメンバー達が彼らの行く手を阻んでくる。
その上、攻撃に意識を切り替えた賢は、スピードも段違いだった。
「くっ!」
賢の襲撃を、勇太はかろうじて避ける。
しかし、追撃とばかりに、賢は勇太に剣を振り下ろした。
「ーーっ」
賢が放った斬撃を、勇太は紙一重で避ける。
「なっ……!」
体勢を立て直した勇太は、虚を突かれたように息を呑んだ。
突如、賢の隣に現れた女性。
魔術のスキルを使って現れたその女性は花のような微笑みを絶やさず、ただ賢を見つめている。
「かなめ、君はここに来たのか?」
「はい、賢様。椎音紘の対処は、お兄様にお任せしております」
その女性ーーかなめは、賢の問いかけに事の次第を報告した。
「……このタイミングで、か。今回は、紘の啓示よりも、早く対処されているな。先程の台詞といい、何か裏がありそうだな」
この局面において現れたーー新たな敵。
徹は必死に光明に縋り、この場を逃れるための手段に思いを巡らせる。
徹は『レギオン』のギルドメンバー達と対峙しながら、モンスターへと立ち向かう望達に希望を托したのだった。
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