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留菜マナ
留菜マナ

第七十一話 蒼星の廃景①

公開日時: 2020年12月7日(月) 07:00
文字数:1,660

望達は準備を整えた後、有の両親にギルドを託してカウンターに集まった。


「望、奏良、プラネット、妹よ、行くぞ! 幻想郷『アウレリア』へ!」

「ああ」

「うん!」

「はい」


有の決意表明に、望と花音、そしてプラネットが嬉しそうに言う。

望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、幻想郷『アウレリア』の城下町の門前にいた。

『転送アイテム』は一度だけだが、街などへの移動を可能するアイテムだ。

ただし、ダンジョンなどは一度、訪れてからではないと行くことはできない。

幻想郷『アウレリア』の城下町。

そこは、望達のギルドがある湖畔の街、マスカットより、はるかに大きな都だった。

NPCの妖精達が舞う晴れやかな空を背景に、そびえ立つ威風堂々たる古城。

色鮮やかなお菓子で作られたような造りの建物と、紫水晶で彩られた中央通り。

木々生い茂る噴水広場の周りを、虚空に漂いながら魚達の群れが泳いでいる。

そして、風光明媚な景色の中でも一際目を惹く、大きな虹のかけ橋。

それは、幼い頃に夢見た架空の物語を形にしたような街だった。


「幻想的な街並みだね」


昔話に出てくるような幻想的な光景に、花音はぱあっと顔を輝かせる。


「すごいな」


望が感慨にふけていると、奏良は思案するように城下町へと視線を巡らせた。


「有、これからどうするんだ?」

「噴水広場に向かうつもりだ」


奏良の疑問を受けて、有はインターフェースで表示した幻想郷『アウレリア』のマップを見つめる。


「噴水広場か。やはり、宿屋や冒険者ギルドには赴かないんだな」

「ああ。アクセサリーの効果で、『カーラ』のギルドメンバーに変装しているとはいえ、上級者プレイヤーには見破られてしまう可能性があるからな。危険性の高い場所には、なるべく赴かない方がいいだろう」


奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答えた。


聖誕祭の射的コーナーにおける目玉景品。


それは、イメージした衣装に、見た目を変えることができるメイキングアクセサリーだった。

全員が白いフードを身に纏い、カーラのギルドメンバーに変装することで、有は周囲の目から逃れようと模索したのだ。


「猫耳付きの白いフード。白猫バージョン、すごく可愛いねー!」

「はい。すごく魅力的です」

「猫耳付きのフード、大丈夫なのか……?」


花音とプラネットが楽しそうにしている中、望だけが表情を凍らせていた。

猫耳付きのフードは、花音とケモミミを生やしているプラネットだけが被っており、望達は普通の白いフードを身に纏っている。

インターフェースで表示した幻想郷『アウレリア』のマップを確認しながら、有は拳を掲げて宣言した。


「よし、望、奏良、プラネット、妹よ。このまま、噴水広場に向かうぞ!」

「このまま、噴水広場に向かうのか?」


望の疑惑が届くこともないまま、望達は噴水広場を目指して、紫水晶通りを歩いていった。






「すごい光景だな」


望達が噴水広場を訪れると、魚の群れが宙に舞うように踊っている。

広場に設置されている出店では、NPCの店主の指示に従って、NPCの小人達がせっせと商品を運んでいた。

幻想郷『アウレリア』では、噴水の周辺を飛ぶ魚の群れという、他の街や村では見ることができない不可思議な光景を垣間見ることができた。


「マスター。この周辺では、電磁波の発生は感じられません」


プラネットは目を閉じて、『レギオン』と『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探った。

だが、今のところ、『レギオン』と『カーラ』による尾行はないのか、不可解な発信源は確認できなかった。


「今日も確か、徹が監視に派遣されているんだよな。何だか、愛梨だけではなく、俺達にとっても顔馴染みになってきたな」


望は愛梨としての記憶を思い出しながら、これから赴くことになる『カーラ』のギルドに関して思考しようとする。

だが、その前に、望はさらにとんでもないものを目の当たりにした。


「妖精……?」


銀色の羽を生やした小さな小人達。

彼女達は、まるで望達を監視しているように、木々の節々から見つめていた。

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