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留菜マナ
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第三百五十話 過ぎ去りし透光①

公開日時: 2022年7月15日(金) 16:30
文字数:1,614

「手嶋賢は避雷針のトラップを多用していた。街道のあらゆる場所に避雷針のトラップが仕掛けられている可能性が高いな」

「そうだな」

「そうだね」


奏良の思慮に、望とリノアは自分と周囲に活を入れるように答える。


「有、今のうちに頼まれていた『氷の結晶』を渡しておくな」

「徹よ、助かった」


有は予め、徹に手配を頼んでいた氷の結晶を受け取った。


「まずは、アイテム生成をする必要があるな」


有はアイテム生成を使い、新たなアイテムを産み出していった。

敵を撹乱させるための氷属性の飛礫アイテム。

トラップ解除用の魔弾アイテム。

『氷の結晶』と複数のアイテムを用いて、次々とアイテムを作成していく。

その様子を眺めていた花音が、興味津々な様子で尋ねた。


「その、氷属性の飛礫アイテム。罠発動の確認をしたり、『レギオン』と『カーラ』の人達を牽制することに使えないかな?」

「恐らく、使えるだろうな」

「わーい! すごい連携攻撃が出来そうだよ!」


曖昧に言葉を並べる奏良をよそに、花音はぱあっと顔を輝かせる。


「街道の戦闘は、向こうが有利な状況にあるな」

「なら、敵を引き付ける役と、トラップを仕掛けたり、解除する役にそれぞれ分担した方がいいよな」

「そうだな」

「そうだね」


徹と勇太の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから応える。

信也率いる『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達が待ち構えている街道攻略戦は難航する気配を見せていた。


「どうやって対処したらいいんだ」

「どうやって対処したらいいの」


望とリノアが思い悩んでいると、腕を組んだ有はとんでもないことを口にした。


「よし、ならば、俺は敵を引き付ける囮役をやるぞ!」

「お兄ちゃん、私も囮役するー!」

「囮役って……、有は『アイテム生成』のスキルが使えるからトラップを仕掛ける役回りじゃないのか……!?」

「囮役って……、有は『アイテム生成』のスキルが使えるからトラップを仕掛ける役回りじゃないの……!?」


有と花音の突拍子のない作戦を聞いて、望とリノアは呆気に取られてしまう。

その指摘に、プラネットは水を得た魚のように前に出て提唱した。


「有様。敵を引き付ける役は、私達にお任せ下さい。敵を惹き付ける囮という大役、私達が務めてみせます」

「……うむ、仕方ない。プラネットよ、頼む」

「はい」


プラネットの決意に満ちた真剣な眼差しを見て、有は折れた。


「ここまでは、予定どおりだ。このまま、紘の指示どおりに動くしかないな」

「徹様、電磁波の発信源の特定、お任せ下さい」


徹の方針に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。

プラネットは感覚を研ぎ澄まし、『レギオン』と『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。

電磁波の発信源を特定することで、信也達以外ーーニコット達による妨害がないのか、探ろうと考えたのだ。


「だけど、どうやって、敵を引き付けたらいいんだろうな?」

「だけど、どうやって、敵を引き付けたらいいのかな?」

「氷属性の飛礫アイテム以外にも使える撹乱方法がある」


望とリノアの疑問を受けて、徹は花音と勇太に目配せした。

勇太は即座にインターフェースを使い、自身のスキル技を確認する。


「妹よ、どういうことだ?」

「あのね、お兄ちゃん。『クロス・バースト』を使えば、封印の効果で特性そのものを使えなくなるんだよ!」


有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。


「花音の天賦のスキル『クロス・バースト』を使えば、『カーラ』が呼び出したモンスター達は封印の効果で、特性そのものを使えなくなる」

「鞭の天賦のスキルは、ステータス異常を発生させる技が多いよな」


奏良が事実を如実に語ると、勇太は納得したように首肯する。


「そういう君も、敵を一網打尽にできる技があるんじゃないのか?」

「ああ。突破口を開くきっかけになるのかは分からないけどな」


奏良の指摘に、勇太は切り替えるように表情を引き締めた。


『フェイタル・トリニティ』。

それは勇太の切り札ともいえる大技だった。

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