「助言だ。『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、君達の知らない事実が隠されている。究極のスキルーー特殊スキルについてのこともな」
「……特殊スキルについて、何か分かるのか」
意外な局面に、奏良はインターフェースで表示した『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の周囲のマップを視野に入れながら模索する。
「また、会おう」
微笑とともに決然とした言葉を残して、信也は空中を飛行しながら地上に着地すると、何事もなかったように喧騒へと紛れていった。
信也の来訪は、一瞬にして周囲の空気を硬化させた。
それは、信也が立ち去った後もなお、続いている。
「ーーっ!」
その時、望達は夥しい量の闇が迫ってきていることに気づいた。
空全体を覆いつくさんばかりの黒い集団。
そして、また新たなガーゴイル達が、浮き島の周囲に出現する。
「みんな、来るぞ!」
「うん!」
迫ってきたガーゴイル達の群れに、望達は捜索を切り上げ、一斉に浮き島から踊り出た。
「くっ!」
望は先導しながら、目の前に迫るガーゴイル達を屠っていった。
「切りがないな」
望は標的を切り替え、剣を構え直す。
狙うべきは、残りの数匹のガーゴイルだったのだが、望を飛び越えるように羽ばたき、光龍のもとへと舞い戻ろうとしてしまう。
「貫け、『エアリアル・アロー!』」
奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に距離を取ろうとしていたガーゴイル達へと襲いかかる。
ガーゴイル達は地面に伏すと、羽を撒き散らしながら消えていった。
「一気に行くよ!」
花音は身を翻しながら、鞭を振るい、周囲の空を飛び交うガーゴイル達を翻弄する。
状況の苛烈さから逃走しようとしたガーゴイル達を畳み掛けるように、杖を構えた有は一歩足を踏み出した。
『元素還元!』
有は、浮き島へと避難したガーゴイル達を牽制するように杖を振り下ろす。
有の杖が地面に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
地面の一部が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
地面が消えたことで、支えを失ったガーゴイル達は次々と空中へと舞い戻っていく。
「逃がしません!」
プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を空中へと舞い戻ろうとしたガーゴイル達に叩きつけた。
それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。
煙が晴れると、ガーゴイル達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。
『フェイタル・レジェンド!』
跳躍した勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。
勇太の放った天賦のスキルによる波動が、ガーゴイル達を襲う。
ガーゴイル達は崩れ落ち、やがて消滅していく。
「本当に数が多いな」
望達はまるで競い合うように、群がるガーゴイルの集団を一刀の下にねじ伏せていった。
だが、相手は何百もの大群だ。
しかも、倒しても倒しても、ガーゴイル達は四方八方から現れ、次々に襲い掛かってくる。
全てを倒しきるのは不可能だろう。
「望、奏良、プラネット、勇太、そして妹よ、このままでは、埒が明かない。徹達と合流した後、地上に戻るぞ!」
「ああ、分かった」
「うん」
有の指示の下、望達は空中で戦闘を繰り広げている徹達のもとへと向かう。
ガーゴイル戦は今も、苛烈さを極めている。
周辺の浮き島全体を揺らす衝撃が、徹達とガーゴイル達の戦闘の激しさを物語っていた。
「塔の迎撃システム、厄介だな」
空中を跋扈(ばっこ)するガーゴイル達に対して、徹は光龍を使役しながら、戦局を見据えていた。
そこへ調査を切り上げた望達がやってくる。
「徹。塔周辺を調べたけど、リノアを元に戻せる方法は見つからない」
「そうか」
望からの報告に、徹は戦闘を切り上げるタイミング的には丁度良いと考えた。
「イリス。光龍とともに、地上までの道を切り開けるか?」
「徹様、問題ありません」
徹の指示に、イリスが空中で槍を素早く構え直し、気合いを入れる。
「行きます!」
「ーーっ」
イリスは、ガーゴイル達の挙動に注意を傾ける。
彼女は躍動すると、望達に襲い掛かってきたガーゴイル達を勢いよく叩き伏せた。
この瞬間、ガーゴイル達の目標はイリスに切り替わった。
次々と飛びかかって来る群れを、イリスは機敏な動きでかわす。
だが、イリスが浮き島に着地した隙を見逃さず、残ったガーゴイル達は突撃を仕掛ける。
「行け!」
その隙を埋めるように、徹の声に呼応した光龍は咆哮した。
虚を突かれたせいなのか、ガーゴイル達は体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。
そして、徹が動くのを見計らっていたように、イリスは次々とガーゴイル達を撃破していく。
「よし、望、奏良、プラネット、勇太、そして妹よ、戻るぞ! 地上へ!」
「ああ」
「うん!」
有の号令の下、望達は地上を目指して跳躍する。
「このまま、街に向かうぞ!」
「空を飛ぶのってすごいねー!」
有と花音が大きく身体を動かすと、突き抜けるように空へと駆け降りていった。
有達を追って、望達もまた降下する。
高積雲を突き抜けると、どこまでも果てがないような仮想世界が、望達の視界一面に広がった。
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