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留菜マナ
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第ニ百六十四話 唯一無二の想い④

公開日時: 2021年6月9日(水) 16:30
文字数:1,621

「行くぜ!」


一網打尽とまではいかなかったが、勇太は次々と『レギオン』のギルドメンバー達を薙ぎ倒していく。


「よーし、さらに行くよ!」


裂帛の咆哮とともに、花音は力強く地面を蹴り上げた。


『クロス・バースト!』


今まさに花音達に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った封印の効果によって、モンスター達は全ての特性を封じられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。


「続けて行くぜ!」


そのタイミングで、勇太は起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させる。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ!」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。

賢のHPが減少する。


「徹、後は頼む!」

「徹、後はお願い!」


声に呼応するように、望達をブラインドして近づいていた徹が賢達にとっては死角から現れた。


「ここは任せろ!」


徹が即座に精霊を召喚する。


『我が声に従え、ララ!』

「ーーなっ!」

「ーーっ!」


徹の声と同時に、望達の目の前に光輝く精霊が現れる。


「ララ、手嶋賢の動きを止めろ!」

「了解!」


金色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精達とさほど変わらない体躯の精霊ララは、主である徹の指示に従ってふわりと飛来した。


「道を開けてもらうわよ!」

「精霊か……」


ララは電光石火の早業で光の檻を生成させた。

賢の逃げ道を塞ぐように、四方形の光の壁が具現化する。


「これで、しばらくは動けないよ」


動きを阻害された賢の姿を見遣り、ララは得意げに腰に手を当てた。

ララは飛来して、徹の前で無邪気に笑う。


「それはどうかな?」

「ーーうん。徹くんの言うとおり、動けないよ!」


賢がアイテム生成のスキルを用いて解除してみせた瞬間、花音の振るった鞭先が、意識を光の壁に集中していた賢に叩きつけられる。


「くーーっ」


光の壁の解除瞬間を狙った花音の間隙。

咄嗟の判断で回避行動を取った賢は、直後にそれが取り返しのつかないミスであったことに気づいた。


「なっ、まーー」

「待つわけないだろう!」


勇太はそう言い捨てると、賢が避けたことで開いたダンジョンの入口へのスペースを望達共々、突っ切っていった。


「とりあえず、ギルドメンバー達にメッセージを飛ばしてみるな」


メッセージは、プレイヤー同士を繋ぐ通信手段だ。

徹が半透明のホログラフィーを表示して、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達に向けて文字を入力し、送信する。


「ニコットは、妨害対象を排除します」


イリスと対峙していたニコットが淡々と口にする。


「それは、こちらの台詞です。彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」

「お断りします。ニコットはこのまま、指令を続行します」

「そうですか……」


イリスの言葉に返ってきたのは、提案でも懐柔でもなく、断固とした拒絶。

その折りを見計らって、イリスはニコットの追撃を捌き、入口へと跳躍した。


「イリスちゃん!」

「皆様、ご無事で何よりです」


花音が安堵の表情を浮かべると、戦闘を切り上げたイリスは誠意を伝えてくる。


「イリス。他のメンバー達とともに、望達が転送アイテムを使うまでの時間を稼げるか?」

「徹様、問題ありません」


徹の指示に、イリスが槍を素早く構え直し、気合いを入れる。


「行きます!」

「ーーなっ」


イリスは、『レギオン』のギルドメンバー達の挙動に注意を傾ける。

彼女は躍動すると、望達に襲い掛かってきた『レギオン』のギルドメンバー達を勢いよく叩き伏せた。

この瞬間、『レギオン』のギルドメンバー達の目標はイリスに切り替わった。

次々と襲いかかって来る集団を、イリスは機敏な動きでかわす。


「今だ!」


だが、イリスが着地した隙を見逃さず、『レギオン』のギルドメンバー達の指示に従い、残った使い魔達は突撃を仕掛けた。

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