「でも、お兄ちゃん。あの光の加護を解除したことがあるのは、愛梨ちゃんの特殊スキルだけだよ?」
荒れ狂うモンスターを見据えて、花音は疑問符を浮かべ、困り果てる。
「妹よ、何も解除することを前提に考える必要はない。『カーラ』のギルドマスターの光の加護は、愛梨の特殊スキルに頼らなくても対処する手段はあるぞ」
「えっ? どういうこと?」
花音の素朴な疑問に、プラネットは居住まいを正して、有の代わりに応える。
「花音様。『カーラ』のギルドマスターによるモンスターへの干渉は、恐らく遠距離には対応できないと思われます」
「遠距離に? そう言えば、あの時、『カーラ』のギルドホームから離れたら、望くんの頭痛も治まったね」
「ああ。それに多分、魔術の持続時間はあるはずだ。光の魔術の効果が途切れたら、あのモンスターの加護も消えるはずだからな」
顔を上げた花音が言い繕うのを見て、徹は追随するように安堵の表情を浮かべた。
以前、『カーラ』のギルドホームでの争奪戦。
花音達は不意に、湖畔の街、マスカットに戻った際に望が受けていた光の魔術の影響が途切れたことを思い起こす。
「お兄ちゃん。今、この場で転送石とかは使えないかな?」
「恐らく、今、この場で転送石などを使っても、『レギオン』はあのモンスターごと、ギルドまで追ってくるかもしれない。転送石ではなく転送アイテムを使って、距離を稼ぐ必要があるな」
花音の訴えに、有はインターフェースを使って、周辺の安全地帯を検索した。
この周辺には、先程まで居た『這い寄る水晶帝』、その近くに『ネメシス』のダンジョンがある。
そして以前、訪れた『シャングリ・ラの鍾乳洞』と『サンクチュアリの天空牢』が顕在していた。
「でも、お兄ちゃん。そろそろ望くん達が家に帰らないといけない時間だよ」
「そうだな」
「そうだね」
花音が懸念材料としてインターフェースで表示した時刻を、望とリノアはまじまじと見つめる。
学校が終わったばかりの夕方の時刻から、目的のダンジョンに向かったためか、既に夜の時刻になっていた。
次の日が休日だとはいえ、これ以上、連絡もなしに帰りが遅くなるのは厳しい。
「心配するな、妹よ。今回は帰りが遅くなることを見越して、ダンジョンに向かう前に、母さんに事前連絡を頼んでいる。前もって、望達の両親には遅くなることを伝えている。最悪、俺達の家に泊まる形になることもな」
「さすが、お兄ちゃん!」
有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。
「有の家に泊まるのは僕達だけか。残りのメンバーは、いろいろと大変だろうな。とりあえず、遅くなった場合、君達、『アルティメット・ハーヴェスト』からも支援をしてくれ」
「……おまえ、いつも一言多いぞ」
銃を構えた奏良の素っ気ない言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
「望くんと奏良くんがお泊まりするかもしれないんだね!」
「その通りだ、妹よ」
喜び勇んだ妹の意を汲むように、有は自身の考えを纏めた。
「だが、妹よ。喜ぶのは、この状況を改善してからだ」
有は長々とため息をついてから、決然と戦況へと目線を向けた。
ここから脱出するのは、かなり困難を極めそうだなーー。
不意に別の見解が、有の意識の俎上(そじょう)に乗る。
「くっ!」
勇太と賢の熾烈な剣戟の嵐。
爆発的に加速された剣捌きが、唸りを上げて勇太に襲い掛かる。
そのあまりの速度に勇太は驚愕した。
両者の間合いが一気に詰まる。
賢の一撃は一瞬でも気を抜けば、致命打になるという危機感を孕んでいた。
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