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留菜マナ
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第百十四話 星空の螺旋階段⑥

公開日時: 2021年1月10日(日) 16:30
文字数:1,570

「美羅の真なる力……」

「美羅様の真なる力……」


望とリノアは不思議そうに、賢の真偽を確かめる。

賢が提示してきた提案は、常に狙われてきた望達、そして、リノアを救いたかった勇太達にとっては願ってもない条件だった。

だからこそ、理解できなかった。

何故、そこまでして、美羅の真の力を発動させようとするのか。

甘美な提案の裏には、何かしらの思惑が窺えた。


「「ガアアッーーーー!!」」

「このままでは、ボスモンスターは分裂を繰り返し、魔方陣から召喚されたモンスター達は増殖する」

「「ーーっ」」


二体のボスモンスターに波状攻撃を仕掛けていた賢の言葉に、望とリノアは苦々しい表情で眉をひそめた。

それは、仮定の形をとった断定だった。

HPが半分以下になったボスモンスター達が、さらに分裂する。

ボスモンスターは、四体になった。


「「ーーっ!」」


迫り来る四体の巨人達の猛攻に、望とリノアは戸惑うように息を呑んだ。

賢は一呼吸おいて、異様に強い眼光を望に向ける。


「蜜風望。美羅様の真なる力の発動には、君と椎音愛梨の力が必要だ」

「HPが半分以下になった場合に発動するなら、みんなで一気に攻撃すれば倒せるだろう!」

「HPが半分以下になった場合に発動するなら、みんなで一気に攻撃すれば倒せるよ!」


直前の動揺を残らず消し飛ばして、望とリノアが叫ぶ。

一触即発な状況の中、賢は迷いなく断言する。


「このクエストの残り時間は、あとわずかだ。君達も、この塔が地上に降り立つのを感じただろう。あれは、クエストが終了する間近だという報せだ」

「「……終了」」


予想外の賢の言葉に、望とリノアは意表を突かれる。


「どうして終了するなんて、分かるんだ?」

「どうして終了するなんて、分かるの?」

「私達は以前、同じようなクエストを受けたことがあるからな」


到底、聞き流せない言葉を耳にした望とリノアは、虚を突かれたように瞬く。

賢はそれを見越した上で、徹頭徹尾、美羅のために行動を起こす。


「このクエストが終了するまで、ボスモンスター達を葬り、魔方陣から召喚されたモンスター全てを倒すのは困難を極めるはずだ。もちろん、ここでクエストを諦めて再び、私達とボスモンスター達の戦いを再開するという三つ巴戦になっても構わない」

「「……それは」」


あまりにも単刀直入な疑問に、望とリノアは言葉に詰まる。

賢の指摘は、正鵠を射ていた。

ボスモンスター達との戦いは、次第に劣勢になってきていた。


「奏良、プラネット、妹よ。このままでは、まずいぞ」


有達が後手に回るのを見計らって、魔方陣から次々と壁を作るようにモンスター達が召喚される。

壁のように迫り来る様は、まるで密集陣形のようだ。

四方八方から、モンスター達が有達へと襲いかかる。


「お兄ちゃん達に手出しはさせないよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、モンスター達を翻弄する。

だが、それはほんのわずか、モンスター達の動きを鈍らせただけで動きを止めるには至らない。

ゲームオーバーまでの時間を延ばしているだけだ。


「このままでは勝てないな」


迫り来る攻撃に合わせ、奏良は全方位に連射する。

モンスター達を撃ち落としながら、奏良は事実を冷静に告げた。


「有様。モンスター達の包囲によって、身動きが取れなくなってきています」

「プラネットよ、分かっている」


モンスターに拳を振り下ろしたプラネットの戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。

だが、有達の視界は既に、モンスター達によって埋め尽くされていた。


「賢様のもとに行かせるな!」

「魔術のスキルを強化して、結界を張れ!」


『レギオン』のギルドメンバー達もまた、魔方陣から押し寄せるモンスターの大群の対応に追われていた。

有達の攻撃が全く効かない鋼鉄並みのモンスターの集団との戦いが加熱している。

危機迫る有達のもとへ、『レギオン』からの助勢は期待できそうもなかった。

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