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留菜マナ
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第ニ百八十話 水想の言伝③

公開日時: 2021年6月25日(金) 16:30
文字数:2,123

「手嶋賢様。ニコットはこのまま、蜜風望達の妨害に徹します」

「「妨害……?」」


無邪気に嗤うニコットの発言を聞いて、望とリノアは嫌な予感がした。

しかし、望達の驚愕には気づかずに、ニコットは淡々と攻撃態勢へと移る。


「まずは、そのための妨害対象を速やかに排除します」

「それは、こちらの台詞です。彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」

「ニコットはこのまま、指令を続行します」


ニコットの一方的な要求に、今まで応戦していたイリスは表情を歪めたくなるのを堪える。

そのタイミングで、賢は厳かな口調で言い放った。


「ニコット、彼女のことは任せた。私達は蜜風望達を捕らえる」

「手嶋賢様、了解しました」


賢の指示に、ニコットは素直に従う。


「まるで、私など眼中にないような言い回しですね」

「この機会を逃すわけにはいかないからな」


状況説明を欲するイリスの言葉を受けて、賢は表情の端々に自信の満ちた笑みを迸らせた。


「さて、勇太くん、どうする?」


その時、曖昧だった思考に与えられる具体的な形。

戦局を見極めようとしていた勇太は、賢が意味深な笑みを浮かべているのを見て思わず、身構えた。


「かなめを放置して置くわけにはいかないこの状況。このまま、私と戦いながら、かなめを相手にするつもりかな?」

「ーーっ」


賢から予想外の選択を迫られた勇太は、苦悶の表情を浮かべる。


リノアの座標の移動を阻止したい。

だが、やはり、『カーラ』のギルドマスターの襲来に備えながら、こいつと戦うのは俺一人じゃ厳しいかもしれない。

どうしたらーー


「行け!」


二律背反に苛まれていた勇太は、徹の声音を聞いて我に返った。

徹が呼び出した光龍は、身体を捻らせて『レギオン』の魔術のスキルの使い手達のもとへと迫った。


「くっーー」


虚を突かれたせいなのか、『レギオン』の魔術のスキルの使い手達は体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。


「……なら、俺は、俺の出来ることを成し遂げるだけだ!」


勇太は一呼吸置くと再び、賢へと向かっていく。

起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させた。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。

賢のHPが一気に減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。

勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。


「『星詠みの剣』!」


だが、賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。

その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。


「まだだ! 回復するというのなら、回復する暇を与えないくらい、何度でも叩き込んでやる!」

「なるほど。そういった理論もあるな」


幾度も繰り出される互いの剣戟。

超高速の攻防を繰り広げながら、賢は勇太の意気込みを感心する。


『エアリアル・アロー!』


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に、モンスターへと襲いかかった。

HPを示すゲージは減ったものの、モンスター達はすぐに完全復活して青色の状態に戻ってしまう。

特殊スキルの力が込められた剣で、モンスターを薙ぎ払っていた望とリノアは咄嗟に焦ったように言う。


「有、このままじゃ埒が明かない」

「有、このままじゃ埒が明かないよ」

「ああ、分かっている。とりあえず、みんな、一度、回復アイテムを使ってHPを回復させるぞ!」


有は腕を組んで考え込む仕草をすると、唸り声を上げる烏賊型のモンスターの様子を物言いたげな瞳で見つめた。


「奏良、プラネット、妹よ。これで少し楽になるはずだ」

「うん。お兄ちゃん、ありがとう」

「有様、ありがとうございます」

「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。もう少し早く、みんなに回復アイテムを渡してほしかった」


有はモンスター達を刺激しないように近づくと、花音とプラネットと奏良に回復アイテムを放った。

プラネットと顔を見合わせて、屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせる花音と、先の戦いを見据えながら、額を押さえて途方に暮れている奏良。

三人は受け取った回復アイテムを手に戦線を離れると、そこで一息つき、回復アイテムを口に含む。

花音と奏良とプラネットは、HPを少しずつ回復させていく。

その間、望とリノアが連携攻撃を仕掛け、烏賊型のモンスターの注意を引いていた。


「望くん、リノアちゃん、お待たせ!」

「状況が状況だからな。愛梨を護るために、全力を尽くさせてもらおう」

「マスターと愛梨様とリノア様は必ず、お守りします」


望の代わりに、花音とプラネットが前衛に立ち、後方で奏良が風の魔術を放つ。


「望、リノアよ、回復アイテムだ」

「ああ。有、ありがとうな」

「うん。有、ありがとう」


有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、望とリノアのHPは少し回復した。

望とリノアが振り返ると、モンスターは瓦礫を薙ぎ払い、破壊の限りを尽くしている。


「妹よ。『カーラ』のギルドマスターの加護によって、モンスターは倒してもすぐに復活するようだ。改めて、麻痺効果を付与するスキルを頼む!」

「うん!」


有の指示に、鞭を振るっていた花音が勇ましく点頭した。

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