奏良が語った作戦は筋は通っているし、理にも敵っている。
本来なら、すぐにでも『レギオン』と『カーラ』の野望を止めたかった。
だが、一時の感情で、リノア達を危険に晒すわけにはいかない。
『レギオン』と『カーラ』が望を捕らえようとしてくるのなら、逆に彼らを捕縛して新たな情報を入手する。
末端の者の場合、詳しい情報を持っていない可能性は高い。
それでも、常に望達の先を行く『レギオン』と『カーラ』の動きを把握するために、望達が取れる手段の一つでもあった。
「望、奏良よ。予め、罠を設置する必要もあるな」
有は考え込む素振りをしてから、改めて望達を見据える。
「俺達が現実世界で取れる手段は少ない。ダンジョン調査も危険極まりない。八方塞がりな状況だというのなら、この現状を打開するために出来る限りのことをしていくしかないだろう」
「そうだな」
「うん」
有の核心に満ちた言葉に、望と花音は間一髪入れずに頷いた。
高位ギルド『レギオン』と『カーラ』による妨害行為。
それに対処するために、残りのダンジョン調査は三ヶ所全て、調査を終えられる方法を模索する必要があるなーー。
そのために、『アルティメット・ハーヴェスト』との協力態勢を築いていくしかないな。
有は改めて、今後の作戦への再検討を示す。
「プラネットよ、リノアの様子は変わりないようだな」
「有様達が帰還された後も、リノア様の様子は変わりありません。お眠りになられております」
有の的確な疑問に、プラネットは訥々と答える。
「リノアの様子は変わらないか」
プラネットの説明に、奏良はカウンターに背を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。
そのタイミングで、有は以前、疑問を呈示した事を切り出した。
「プラネットよ、運営側が管理していたNPC達は今はどうなっている?」
「プロトタイプ版にログインされています、高位ギルドが近場のNPCの管理を引き継いでいます」
有の鋭い問いに、プラネットは丁重に答えた。
「これまでの状況に関しては、他のNPCーーペンギン男爵様達とともに情報共有しています」
プラネットは、人数分の紅茶を準備すると、丁重にテーブルに並べる。
お茶請けは、焼きたてのパンケーキだった。
花音は席に座ると、未(いま)だ温かなふわふわの生地に、ハチミツを添える。
「わーい! プラネットちゃんの作ったパンケーキ、すごく美味しいよ!」
ケーキを切り分けて一片を頬張った花音は、屈託のない笑顔で歓声を上げた。
それに倣って、席に座った望達も、パンケーキを切り分けて口に運ぶ。
「本物のパンケーキを食べているみたいだな」
まるで現実のパンケーキを食べているような味と匂いと食感。
想像以上の再現度に、望は感極まってしまう。
「よし、食事を終えたら、『アルティメット・ハーヴェスト』とコンタクトを取るぞ」
「うん」
有が発した指示に、ワッフルを食べ終わった花音は大きく同意する。
だが、花音はすぐに思い出したように唸った。
「でも、お兄ちゃん。勇太くん達がまだ来ていないよ」
「そうだな」
もっともな花音の疑問に、望も同意する。
「望、花音!」
二人の耳に届けられた聞き覚えのある声音。
気がかりを口にしていた望と花音は突如、かけられた声に振り返った。
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