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留菜マナ
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第七十四話 蒼星の廃景④

公開日時: 2020年12月8日(火) 16:30
文字数:1,448

「これからどうするか、悩みどころだな」


望は紅茶を口に含むと、額に手を当てて困ったように肩をすくめてみせた。

店内は寂れている様子だが、雰囲気は悪くない。

紫水晶通りや噴水広場の騒がしさに比べれば、とても静かで落ち着いている。


「やっぱり、『カーラ』にも検問があるのか。高位ギルドは、どこも検問がありそうだな」


望はカップを置くと、インターフェースで表示した幻想郷『アウレリア』のマップを見つめて言った。

今も、メイキングアクセサリーの効果で、『カーラ』のギルドメンバーに扮しているが、さすがに検問を突破できるとは思えない。


「お父さんとお母さん、大丈夫かな?」


赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。

すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。


「花音。この状況が解決したら、ギルドに帰ろうな」

「……うん。望くん、ありがとう」


顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。

望は深呼吸をすると、これからの戦いに向けて、身体をほぐして両手を伸ばした。


「とにかく、今はここで作戦会議をしよう。その上で、『カーラ』のギルドホームに行かないとな」

「うん」


手を差し出してきた望の誘いに、花音は満面の笑顔で頷いた。

二人の手が重なる。


「みんなで一緒にギルドに戻ろうな」

「望くんと愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」


望の視線を受けて、花音は喜色満面で答えたのだった。






幻想郷『アウレリア』の一角にある古城。

そこに高位ギルドの一つ、『カーラ』のギルドホームがあった。

斜陽が、古城の床にステンドグラス越しの光を落とす。


「美羅様……」


祈りを捧げ続けるかなめを背景に、『カーラ』のギルドメンバー達は頭を垂れて、美羅を心酔し、崇め敬っていた。

かなめの視線の先には、美羅の肖像画が飾られている。

繊細でも優美でもなく、ただただ壮麗なーー神秘の真髄を追究したかのような古城は、今は女神を崇める礼拝堂としての役目を果たしていた。


「恐れる必要はありません」


凛とした声が、室内に響き渡った。

かなめは、無感動に美羅の肖像画を見つめる。


「賢様のーー私達の目的は、美羅様を覚醒させて、神にも等しい叡知を宿した存在を産み出すことです」


目を見瞠(みは)る『カーラ』のギルドメンバー達は、ただ静かにかなめの次の言葉を待つ。


「特殊スキルの使い手達はいずれ、私達の手中に入ります。ならば、私達はそれに報いる限りです」


かなめは美羅の肖像画を見上げて、静かな声音で告げた。


「かなめ様。特殊スキルの使い手の捕縛、私め、林崎(はやしざき)隼(しゅん)にお任せ下さい」


かなめの傍に控えていた『カーラ』のギルドメンバーの男ーー林崎隼が、新たなモンスターを召喚する。

かなめ達の前に現れたのは、粘性で構成した水溜まりのような体躯を持つモンスターだった。


「『レギオン』から、奴らの情報を聞き及んでおります。私の召喚獣を使えば、必ずや特殊スキルの使い手を捕らえられます」

「分かりました」


隼の進言を、かなめは軽やかに了承する。


『我が愛しき子達よ』


隼とモンスターの周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。


『我らの目的のために、特殊スキルの使い手をここに連れて来なさい』


かなめが神々しくそう唱えると、隼とモンスターが光に包まれる。

やがて、隼とモンスターは、まるで光の羽が生えたように古城の外へと降り立ち、望達がいる城下町へと飛んでいった。

後に残されたのは、女神に祈願するかなめと『カーラ』のギルドメンバー達だけだった。

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