「これからどうするか、悩みどころだな」
望は紅茶を口に含むと、額に手を当てて困ったように肩をすくめてみせた。
店内は寂れている様子だが、雰囲気は悪くない。
紫水晶通りや噴水広場の騒がしさに比べれば、とても静かで落ち着いている。
「やっぱり、『カーラ』にも検問があるのか。高位ギルドは、どこも検問がありそうだな」
望はカップを置くと、インターフェースで表示した幻想郷『アウレリア』のマップを見つめて言った。
今も、メイキングアクセサリーの効果で、『カーラ』のギルドメンバーに扮しているが、さすがに検問を突破できるとは思えない。
「お父さんとお母さん、大丈夫かな?」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。この状況が解決したら、ギルドに帰ろうな」
「……うん。望くん、ありがとう」
顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。
望は深呼吸をすると、これからの戦いに向けて、身体をほぐして両手を伸ばした。
「とにかく、今はここで作戦会議をしよう。その上で、『カーラ』のギルドホームに行かないとな」
「うん」
手を差し出してきた望の誘いに、花音は満面の笑顔で頷いた。
二人の手が重なる。
「みんなで一緒にギルドに戻ろうな」
「望くんと愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」
望の視線を受けて、花音は喜色満面で答えたのだった。
幻想郷『アウレリア』の一角にある古城。
そこに高位ギルドの一つ、『カーラ』のギルドホームがあった。
斜陽が、古城の床にステンドグラス越しの光を落とす。
「美羅様……」
祈りを捧げ続けるかなめを背景に、『カーラ』のギルドメンバー達は頭を垂れて、美羅を心酔し、崇め敬っていた。
かなめの視線の先には、美羅の肖像画が飾られている。
繊細でも優美でもなく、ただただ壮麗なーー神秘の真髄を追究したかのような古城は、今は女神を崇める礼拝堂としての役目を果たしていた。
「恐れる必要はありません」
凛とした声が、室内に響き渡った。
かなめは、無感動に美羅の肖像画を見つめる。
「賢様のーー私達の目的は、美羅様を覚醒させて、神にも等しい叡知を宿した存在を産み出すことです」
目を見瞠(みは)る『カーラ』のギルドメンバー達は、ただ静かにかなめの次の言葉を待つ。
「特殊スキルの使い手達はいずれ、私達の手中に入ります。ならば、私達はそれに報いる限りです」
かなめは美羅の肖像画を見上げて、静かな声音で告げた。
「かなめ様。特殊スキルの使い手の捕縛、私め、林崎(はやしざき)隼(しゅん)にお任せ下さい」
かなめの傍に控えていた『カーラ』のギルドメンバーの男ーー林崎隼が、新たなモンスターを召喚する。
かなめ達の前に現れたのは、粘性で構成した水溜まりのような体躯を持つモンスターだった。
「『レギオン』から、奴らの情報を聞き及んでおります。私の召喚獣を使えば、必ずや特殊スキルの使い手を捕らえられます」
「分かりました」
隼の進言を、かなめは軽やかに了承する。
『我が愛しき子達よ』
隼とモンスターの周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。
『我らの目的のために、特殊スキルの使い手をここに連れて来なさい』
かなめが神々しくそう唱えると、隼とモンスターが光に包まれる。
やがて、隼とモンスターは、まるで光の羽が生えたように古城の外へと降り立ち、望達がいる城下町へと飛んでいった。
後に残されたのは、女神に祈願するかなめと『カーラ』のギルドメンバー達だけだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!