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留菜マナ
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第百九十九話 境界の魔術士③

公開日時: 2021年4月5日(月) 16:30
文字数:1,302

賢達の思惑が渦巻いている中、望達は『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンの調査をするため、浮き島へと向かっていた。


「よーし、行くよ!」

「ああ」

「うん」


城門の前に降り立った花音は、望達の行動を牽引(けんいん)する。


「望、奏良、プラネット、勇太、リノアよ、このまま、あの城に入るぞ!」

「ああ、分かった」

「うん、分かった」


有の指示に、望達は花音の後を追い、城門へと降り立った。

だが、城門には、ガーゴイル達が待ち構えていた。


「「はあっ!」」


望とリノアは剣を一閃すると、入口付近で待ち構えていたガーゴイル達が吹き飛ぶ。

その隙を突いて、望達は城門に迫る。

極大の白い鉄門の下。

大地の代わりになっている雲は、しっかりと足場を形成していた。


「どうやって開くのかな」


花音は巨大な鉄門の引き手を掴む。

すると力を入れたわけでもないのに、鉄門は蝶番(ちょうつがい)の軋む音を響きかせる。

望達を招き入れるように、鉄門は内側に開いていった。


「昨日まで、イリス達が索敵してくれていたからな。門は既に開いている」

「そうなんだな」

「そうなんだね」


徹の説明に、望とリノアは納得したように頷いた。


『サンクチュアリの天空牢』のロビー。


望達はガーゴイル達を振り切り、牢獄へと向かうために走っていった。

城門を護っていたガーゴイル達は、城に入った望達を追ってはこなかった。

しかし、城の中で待ち構えていたケルベロス達が、望達の存在に気づき、まるで呼び水のように集まってくる。


「わーい! 今度はケルベロス達の大群だよ!」

「それどころじゃない」

「それどころじゃないよ」


両手を広げて喜ぶ花音をよそに、望とリノアは必死に塔の奥へと進んでいった。


「ふむ。この城は、鍾乳洞より複雑だな。今日中に最深部の牢にたどり着くためには、やはりモンスター避けのお香は必須か」


ケルベロス達から追いかけられながらも、有はインターフェースを表示させて、城のルートを探索していく。


「妹よ、頼む」

「うん」


花音がモンスター避けのお香を使うと、迫ってきていたモンスター達の一部が怯えたように立ち去っていった。

『モンスター避けのお香』は、弱いモンスターを避けることができるアイテムだ。

数に限りはあるが、今は出し惜しみをしている場合ではない。

前方に、望とリノアと花音と勇太。

有と徹は真ん中。

後方に、奏良とプラネットとリノアの両親という隊列で突き進んでいった。


『クロス・レガシィア!』


進路を妨害してきたキマイラ達に対して、花音がそのまま、天賦のスキルで間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いた花音のスキルに、ターゲットとなったキマイラ達は完全に虚を突かれた。

花音の鞭によって、宙に舞ったキマイラ達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられる。

だが、それでも追いかけてくるモンスターの数はなかなか減らない。


「お兄ちゃん、大盛況だよ!」

「うむ。中級者クエストは、さすがにモンスターが多いな。しかし、妹よ、氷の結晶を手に入れるためには、通らなくてはならない道だ!」


有と花音が会話のキャッチボールをしている間も、モンスター達は血気盛んな様子で追いかけてくる。

望達による『サンクチュアリの天空牢』の攻略は、まだ始まったばかりだ。

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