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留菜マナ
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第百八十二話 蝶のクレードル②

公開日時: 2021年3月19日(金) 16:30
文字数:1,536

望達、『キャスケット』。

賢とかなめ達、『カーラ』。

徹達、『アルティメット・ハーヴェスト』。


『カーラ』の猛攻を受け、混戦状態になりながらも、望達は確実に湖畔の街、マスカットへと近づいていった。


「望くん、リノアちゃん、お願い!」

「ああ!」

「うん!」


先手を打った花音の合図に、跳躍した望とリノアが剣を振るい、『カーラ』のギルドメンバー達を翻弄した。


「なら、これでどうだ!」


『カーラ』のギルドメンバー達は、新たに飛行モンスターを召喚する。

召喚された五体の影が、空中から襲いかかってくるのが見えた。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、呼び出された飛行モンスター達は次々と落ちていく。


「逃がしません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を落ちてきたモンスター達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、召喚されたモンスター達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。


「時間だな」

「「時間……?」」


怪訝な表情で双眸を細める望とリノアを気に留めることもなく、賢は磊落(らいらく)に嗤う


「美羅様はしばらくの間、君達に預けておこう。君達の側にいれば、私達の求めている美羅様の真なる力の発動はいずれ実現するからな」


両手を大地と水平に広げ、賢が悠然と佇む。


「かなめ様。賢様から、撤退の指示が出ております」

「分かりました。いずれ来(きた)る未来、特殊スキルの使い手達は、私達の手中に入ります。それは今日ではなかった、それだけのことです」


『カーラ』のギルドメンバーからの報告に、かなめはあくまでも理想を口にしながら後退する。


『我が愛しき子達よ』


かなめは子守歌のように言葉を紡ぐと、自身の光の魔術のスキルを発動させた。

賢と『カーラ』のメンバー達全員の周りに、魔方陣のような光が浮かぶ。


『撤退致します』

「ま、待て!」


徹が止める暇もなく、かなめ達は魔方陣の光とともに姿を消していった。






「何とかなったか……」


『カーラ』が姿を消したことを確認した奏良は、大きく息を吐いた。

奏良はインターフェースを使い、HPが減ったステータスを表示させる。


「わーい! 望くん、お兄ちゃん、奏良くん、プラネットちゃん、勇太くん、リノアちゃん、大勝利!」

「……っ。おい、花音」

「……っ。花音」


これ以上ない満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってきた花音が望に抱きついた。

花音の突飛な行動に、望は身動きが取れず、窮地に立たされた気分で息を詰めている。

リノアもまた、戸惑ったように同じ動作を繰り返す。


「奏良よ、何とかなったな」

「ああ。『カーラ』が撤退してくれたおかげだ」


有のねぎらいの言葉に、奏良は恐れ入ったように答えた。

高位ギルドの力の片鱗を垣間見たような感覚。

同じ高位ギルドである『アルティメット・ハーヴェスト』の助力と、特殊スキルの力がなかったら、対抗する術はなかっただろう。


「奏良よ、回復アイテムだ」

「ああ」


有から手渡された回復アイテムを呑んだことで、HPが少し回復した奏良は、高位ギルドの底知れない統率力を改めて実感する。


「お兄ちゃん。これから、どうしたらいいのかな?」

「『シャングリ・ラの鍾乳洞』の調査とクエストは達成したが、『サンクチュアリの天空牢』もまた、罠のようだ。こちらの調査とクエストは、保留にしてもらうしかないだろう。とにかく、このままギルドに戻るしかないな 」


花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。

闇雲に調査を続けても、敵ギルドの思惑どおりに事が進むだけだ。

有が頭を悩ませても、思考の方向性はなかなか定まりそうになかった。

ダンジョン調査のクエストは、難航する気配を見せていた。

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