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留菜マナ
留菜マナ

第ニ百五十四話 氷水晶のレクイエム②

公開日時: 2021年5月30日(日) 16:30
文字数:1,688

戦況を見渡した有は決意を固めるように先導する。


「望、奏良、プラネット、勇太、リノア、徹、妹よ。手嶋賢の策略。ここから脱出することは困難を極めそうだ!」

「お兄ちゃん、『クロス・バースト』はいつ使ったらいいかな?」


狼狽する妹の様子に、有はあえて真剣な口調で続けた。


「妹よ、入口が見えてからだ。俺が『元素復元、覇炎トラップ』を使った瞬間、それを放ってほしい!」

「うん!」


花音は鞭を構えると、有の意思を尊重するように微笑んだ。


「なかなか、先に進めないな」

「なかなか、先に進めないね」


望とリノアは通路を突き進み、散発的に遭遇するモンスターと使い魔達を倒しながら疾走する。


「「はあっ!」」


剣を一閃した望とリノアはモンスター達の一角を切り開き、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達が待機している入口を目指して、さらに前へと進んでいく。


『フェイタル・レジェンド!』


勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、モンスター達と使い魔達に襲い掛かる。

モンスター達は一掃したが、『レギオン』が召喚した使い魔達は倒すまでには至らない。

しかし、勇太は起死回生の気合を込めて、使い魔達に更なる天賦のスキルの技を発動させる。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように使い魔達へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーーーガアアッ!」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、使い魔達は怯んだ。

使い魔達のHPが一気に減少する。

頭に浮かぶゲージは0になり、使い魔の一体はゆっくりと消えていった。


「逃がしません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を勇太の攻撃から逃れた使い魔達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

しかし、それは使い魔達の動きを止めただけで、倒すまでには至らない。


「お兄ちゃん、あと少しで入口だよね」

「ああ、妹よ、その通りだ」


鞭を振るい続ける花音の問いかけに、有は記憶を辿るように思考を走らせた。

『レギオン』が召喚した使い魔達は少なくとも、望達が畏怖に値する敵ではあった。

躊躇していては危険だと即断させる力を秘めている。

『這い寄る水晶帝』。

それは鮮麗な氷の水晶とまばゆい光が溶け込む、神秘性に溢れたダンジョンだ。

しかし、今は強大な意志が生み出す絶大な魔力の奔流に飲み込まれ、見る影もない。


「ようやく、入口が見えてきたな」

「ようやく、入口が見えてきたね」


道中、数多くの交戦を経て、『アルティメット・ハーヴェスト』が待機している入口の場所がようやく望とリノアの視界に入った。


「徹様、ここはお任せ下さい!」


ニコットと交戦していたイリスが、空中で武器を素早く構え直し、気合いを入れる。


「お兄ちゃん!」

「妹よ、いつでも大丈夫だぞ!」


目の前に見えた入口を目指して、有と花音は息を合った動きで同時に踏み込んだ。


「妹よ、頼む!」

「うん!」


有の合図に、花音は跳躍し、一気に入口を塞ぐ使い魔達へと接近する。


『クロス・バースト!』


今まさに望達に襲いかかろうとしていた使い魔達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った封印の効果によって、使い魔達は全ての特性を封じられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。


『元素還元!』


有は、モンスター達が放った炎の珠に向かって杖を振り下ろした。

有の杖が炎の珠に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

炎の珠達が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。


「炎の珠の寄せ集めでは、トラップアイテムを一つ作るくらいが関の山だな」


有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見る。


『元素復元、覇炎トラップ!』


今度は後方に迫ってきた『レギオン』のギルドメンバー達に向かって、有は再び、杖を振り下ろした。

有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。

『レギオン』のギルドメンバー達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、行く手を阻んだ。

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