「……っ!」
轟音とともにそれは炸裂し、望達は弾き飛ばされ、視界が回転する。
爆発的に膨れ上がる黒い光と、それに破砕されて宙へと巻き上げられる遺跡の破片。
まるで、小型の台風が遺跡最奥部内を蹂躙しつくしたかのような惨状の正体。
それはーーボスモンスターが放った破壊の光が原因だった。
「みんな、大丈夫か?」
望は何とか上半身を起こすと、周囲を確認する。
「うん。だけど、倒せる見込みが立たないよ。もう、HPがへろへろ~」
花音の指摘どおり、望達のHPは既に半分を切っていた。
だが、望達のHPが半分を切っているのにも関わらず、ボスモンスターはまだ、ほとんど減っていない。
高位ギルドしか倒せていないボスモンスター。
望達が相対するには、まだ時期早々だったかもしれない。
だけどーー。
「望、奏良、妹よ。このまま戦い続けるか。それとも一か八か、逃げるか」
「お兄ちゃん、そんなの決まっているよ!」
問いにもならないような有のつぶやきに、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。
「ここで逃げる選択を選ぶなんて、私達らしくないもん」
「そうだな」
予測できていた花音の答えに、望は笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らす。
「俺達が勝つためには、この状況を打破するしかないな」
「うん」
望の決意の宣言に、花音は意図して笑みを浮かべてみせた。
有達のギルド『キャスケット』。
誰かと共にあるという意識は、押されていてもなお、決して自分達が負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと望は感じた。
盛り上がる望達を背景に、奏良は素っ気なく答える。
「僕は、別に逃げる選択でも構わない。そもそも勝てない勝負なんてしたくないからな」
「もう、奏良くん! 愛梨ちゃんのために、勝てない勝負でも頑張ろうよ!」
「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」
花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪めた。
「何だ、奏良。勝てない勝負なら、諦めるのか? 確かに『アルティメット・ハーヴェスト』の鶫原徹は、愛梨と仲が良さそうだと望から聞いていたな」
「鶫原徹……」
有が神妙な面持ちで告げると、奏良は不意を突かれたように顔を硬直させる。
「愛梨に、あんな男は相応しくない」
「いや、望の話だと、愛梨は徹のことが好きみたいだな」
「ーーなっ!」
有が意味深な表情で虚言を吐くと、奏良の愛執に亀裂が走った。
「そんなこと言ってーー」
望が思わず、反論しそうになるが、咄嗟に花音が人差し指を立てる。
ジェスチャーの意味は、『静かに』。
そのとおり、黙った望を確認すると、花音は次いで小声で囁いた。
「あのね、望くん。心配しなくても、全てお兄ちゃんの嘘だよ。奏良くん、愛梨ちゃんのためなら頑張るから、その気にさせているんだと思う」
「その気に……」
探りを入れるような花音の言葉に、望は窮地に立たされた気分で息を詰めた。
「ーーっ!」
ボスモンスターの攻撃を避けた有が、仕切り直すように告げる。
「奏良よ、そういうことだ。ボス討伐の主戦力は、おまえに任せる。もしかしたら、望を通して、愛梨におまえの活躍が伝わるかもしれないからな」
「分かった。愛梨のために、僕はこの遺跡のボスを討伐しよう」
「ーーっ」
有に上手く丸め込まれている奏良を見て、剣を構えた望は申し訳ない気持ちになったのだった。
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