「なっ!」
「……なっ」
望の驚愕は、賢があっさりと勇太の一撃を防いだことによるものではない。
望が息を呑んだ理由ーーそれは、リノアが賢と共に目の前に現れたからだ。
「柏原勇太くん、素晴らしい圧だな」
その静かな言葉とともに、賢は小さな音を響かせて剣を下段に構える。
勇太は、大剣を構え直すと必死に叫んだ。
「リノアを元に戻せ!」
「それはできないな。美羅様には、彼女の器が必要だ」
勇太の訴えを、賢はつまらなそうに一蹴する。
「だったら、リノアを取り戻す!」
「……愚かな」
勇太の即座の切り返しに、賢は落胆したようにため息をつく。
「喰らえ!」
「……くっ」
勇太の大剣との賢の剣のつばぜり合いは一瞬で終わり、カキンと高い音を響かせて離れた二人は、そこから脅威的な剣戟の応酬を見せた。
先程の速度をさらに越える瞬発。
迷いのない美しい賢の一刀に、勇太はぎりぎりのところで大剣を受ける。
剣と大剣がぶつかり合う度に散る、互いのHP。
『フェイタル・レジェンド!』
「ーーっ」
勇太が放った天賦のスキルによる大技は、賢の距離が極端に離れたことで対応された。
「すごいな」
「すごいね」
高度で複雑な剣閃の応酬。
望とリノアは思わず、驚嘆のため息を吐く。
「相変わらず、君の剣技は素晴らしいな」
強敵を前にした高揚感と満足感。
爽やかな喜びを全面に出した賢と対照的に、勇太は沈黙を貫いた。
不満そうな勇太の様子に尻目に、賢は不意に遠くを見遣るようにして剣を一振りする。
「だが、残念ながら素晴らしいだけだ」
「ーーーーっ」
その言葉が再び、勇太の心に火を点ける。
露骨な敵意と同時に、勇太は一足飛びに賢との距離を詰めた。
「はあっ!」
裂帛の気合いとともに放たれた大剣の一閃に、賢は易々と対応する。
「……っ!?」
勇太が走らせた瞬間の感情に、状況は明白になった。
賢が、勇太を押しているーー。
その厳然たる事実は、徐々にHPにも現れていった。
「「勇太くん!」」
望とリノアの声に応えるように、勇太は何度も立ち向かっていく。
賢による蹂躙とも呼べる絶対的強者の振る舞い。
勇太が振るう剣戟は、ことごとく賢に弾き返される。
「ま、まだだーー」
勇太は荒い呼吸を無理やり切って、賢の元に向かおうとした。
「勇太くん!」
しかし、そのまま倒れそうになった勇太を、すんでのところでリノアの両親が支える。
「リノアを助けないと……」
息も絶え絶えの勇太は、血の気の引いた顔を懸命に奮い立たせた。
その健気さが、リノアの両親の胸を打つ。
『アーク・ライト!』
「……っ!」
リノアの父親は光の魔術を使って、勇太の体力を回復させる。
『お願い、ジズ! 彼に力を与えて!』
それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、勇太の攻撃力を上げた。
「勇太くん。私達も、リノアを救うことに協力させてほしい」
「リノアを助けたいの」
「おじさん、おばさん、ありがとうな」
リノアの両親の懇願に、勇太は嬉しそうに承諾した。
「行くぜ!」
「ああ」
「ええ」
勇太は大剣を振り上げて、リノアの両親とともに賢達に立ち向かっていった。
「絶対にリノアを救ってみせる!」
「何とかして、ここからリノアを救い出さないといけないな」
「何とかして、ここから私を救い出さないといけない」
圧倒されながらも立ち向かっていく、勇太達の強い気概。
その理由を慎重に見定めて、望とリノアはつぶやいた。
「このまま、見過ごせない。だけど、俺が攻撃をすれば、彼女の座標を変えられてしまうだろうな」
「このまま、見過ごせない。だけど、私が攻撃をすれば、私の座標を変えられてしまう」
望とリノアは戦局を見据えながら、漠然と消しようもない不安を感じていた。
「とにかく、それでも勇太くんを助けないと!」
「とにかく、それでも勇太くんを助けたい!」
だが、望とリノアは不安を振り払うように、勇太達の加勢へと向かう。
「蜜風望と柏原勇太達は、私とかなめで相手をしよう。君達は、他のメンバー達の対処と援護を頼む」
「はい」
望とリノアが自身の元に向かってくるのを目にして、賢はすぐにその決断を下した。
その言葉を合図に、『カーラ』のギルドメンバー達はそれぞれの武器を構えた有達と対峙した。
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