「あなたは、この部屋の秘密を解くための手掛かりのはずだ。もしかして、美羅を消滅させる方法を知っているのか?」
「あなたは、この部屋の秘密を解くための手掛かりのはず。もしかして、美羅を消滅させる方法を知っているの?」
交錯する視線。
とらえどころのない空気を固形化させる望とリノアの問いに、美羅の残滓は目を見開いた。
「私は機械都市『グランティア』に赴くための鍵。それ以上でもそれ以下でもありません」
「「鍵?」」
望とリノアは美羅の残滓の言葉を反芻する。
「ですが、情報を提示することは可能です」
機械に打ち込んだような言葉。
その中に美羅の残滓は一縷(いちる)の感情を垂らす。
「今の美羅は、人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手であるあなた達の力を超えるほどの絶対的な力を持っています」
「ーーそれって美羅が真なる力を行使したら、俺達、特殊スキルの使い手でも止めることはできないかもしれないのか」
「ーーそれって美羅が真なる力を行使したら、私達、特殊スキルの使い手でも止めることはできないかもしれないの」
その美羅の残滓の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは息を呑んだ。
「まずは久遠リノアから美羅を解放させることによって、美羅という『救世の女神』をデータの集合体に戻す必要があります。そのためには久遠リノアの意識が必要不可欠です」
「……美羅の力、明晰夢の力。どちらも止めるにはやはり、リノアの意識を覚醒させるしか手立てがないようだな」
美羅の残滓の宣告に、有は驚きと同時に合点がいく。
「望、リノアよ。機械都市『グランティア』に赴くことができれば、美羅を消滅させる方法の足掛かりを掴むことができるはずだ」
「ああ、そうだな」
「うん、そうだね」
有が事実を如実に語ると、望とリノアは納得したように首肯する。
「美羅の残滓が、機械都市『グランティア』に赴くための鍵。本当に美羅の力は強大だな……」
リノアとリノアの家族が妄執に囚われていた存在。
現実世界が無惨な末路へと至った元凶。
先程まで抱いていた懸念が払拭した勇太は苦々しく舌打ちした。
『私は、明日から美羅様に生まれ変わるの』
『生まれ変わる?』
『うん。だから、明日から、あなたに会うことはない』
勇太の脳裏には胸のつかえが取れたように微笑むリノアの姿。
もうどのくらい会っていないんだろうか。
本来のリノアと交わした会話の数々を勇太は懐かしむ。
『ねえ、勇太くんは何か望みはある? 私の望みは、美羅様になることなの』
賢が求めた理想を体現しようとするあの頃のリノアの姿が、勇太の心の琴線に触れた。
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