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留菜マナ
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第三百五十ニ話 過ぎ去りし透光③

公開日時: 2022年7月29日(金) 16:30
文字数:1,562

「望くんと愛梨ちゃんとリノアちゃんは渡さないよ! 望くんと愛梨ちゃんとリノアちゃんは、私達の大切な仲間だもの!」


信也の誘いに、花音は眦(まなじり)を吊り上げて強く強く否定する。


「ああ。望と愛梨とリノアは、俺達の大切な友人で仲間だ。他のギルドに渡すわけにはいかない」

「愛梨を守ることが僕の役目だ」


強い言葉で遮った花音の言葉を追随するように、有と奏良は毅然と言い切った。


「マスターと愛梨様とリノア様を、あなた方に渡すわけにはいきません!」


プラネットも信也の申し出を拒む。


「望とリノアは絶対に守ってみせる!」


勇太は万感の思いを込めて、大剣の切っ先を信也に向ける。


「残念だ。私は、君達が苦しまなくて済む方法を提案したかっただけなのにな」


望達の答えを聞いて、信也は失望した表情を作った。

まるで藪医者としての有り様を語る信也に、勇太は真っ向から反論する。


「リノアを元に戻せ!」


勇太は冷めた視線を突き刺すと、そのまま容赦なく追及する。


「こんな狂っている計画、止めてみせるからな!」

「勇太くん。君の心情はともかく、さすがにこれ以上、計画の遅延は好ましくない」


信也は勇太と視線を合わせるでもなく、虚空につぶやくように告げる。

高位ギルド、『レギオン』と『カーラ』。

彼らが美羅のために尽くすその狡猾さと残忍さは、勇太が知る限りでも突出した存在であった。


「今度こそ、リノアを救ってみせる!」


勇太は両手で大剣を構えると信也と向き合った。

勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。

そして、信也への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。


「行くぜ!」


断定する形で結んだ勇太は、圧倒的な威容を誇る『レギオン』と『カーラ』の大軍に向かって駆けていく。


「残念だ。だが、君達が如何に阻止しようとしても、美羅様の真なる力の発動は必ず行われる」


望達の答えを聞いて、信也は失望した表情を作った。


「君達がどんなに拒んだとしてもだ」


先陣を切った勇太が戦端を切り開くように大剣を振りかぶる。

それに対抗するように、信也は秘めた力を発揮した。

苛烈な赫。麗しい美羅から授かりし浄化の色ーー『明晰夢』の力を励起していく。

覚悟の焱(えん)は優しく罪を吞み込んでいくことになるだろう。

罪炎が世界を焼くように。

望達が怯える事のないように。

長く苦しむことのないようにーー魔力を奔らせる。

しかし、信也が告げた確固たる信念ーーそれに水を入れる者がいた。


「吉乃信也。君は自分の持つ『明晰夢』の力の使い道を分かっていない。持てる力を振るわないのは罪だ」

「ーーっ」


信也が『明晰夢』の力を振るおうとしたその時、聞き覚えのある声が割って入ってくる。

鋭く重い音が響き、信也の身体が吹き飛ばされた。


「信也様!」


後方に大きく後退した信也の姿に、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は明確な異変を目の当たりにする。

思わぬ奇襲を前にして、信也のHPは減少していた。


「「なっ!」」


突然の闖入者に、望達は心穏やかではいられなかった。

何故ならーー


「今回は私も戦場に出よう」


風とともに翻る、青みがかかった銀髪。

鈴の音のような青年の声。

勇太の危機を救ったのは『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターだったから。


「……まさか、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターまでがお出ましとは」


起き上がった信也は表情に苦悶の色を滲ませる。


「せっかくだ、椎音紘。特殊スキルの使い手である君にもご同行願おうか」

「なら、私達を止めてみるがいい」


微かな高揚が窺える紘のその反応を見て、信也の背筋に冷たいものが走った。


今回は一緒に戦ってくれるのかーー。


心強い救援。

望は一拍置いて動揺を抑えると、紘が口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼する。


「紘!」

「紘様!」


徹とイリスは表情を綻ばせて、紘の参戦を歓喜の声で迎え入れた。

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