「望くんと愛梨ちゃんとリノアちゃんは渡さないよ! 望くんと愛梨ちゃんとリノアちゃんは、私達の大切な仲間だもの!」
信也の誘いに、花音は眦(まなじり)を吊り上げて強く強く否定する。
「ああ。望と愛梨とリノアは、俺達の大切な友人で仲間だ。他のギルドに渡すわけにはいかない」
「愛梨を守ることが僕の役目だ」
強い言葉で遮った花音の言葉を追随するように、有と奏良は毅然と言い切った。
「マスターと愛梨様とリノア様を、あなた方に渡すわけにはいきません!」
プラネットも信也の申し出を拒む。
「望とリノアは絶対に守ってみせる!」
勇太は万感の思いを込めて、大剣の切っ先を信也に向ける。
「残念だ。私は、君達が苦しまなくて済む方法を提案したかっただけなのにな」
望達の答えを聞いて、信也は失望した表情を作った。
まるで藪医者としての有り様を語る信也に、勇太は真っ向から反論する。
「リノアを元に戻せ!」
勇太は冷めた視線を突き刺すと、そのまま容赦なく追及する。
「こんな狂っている計画、止めてみせるからな!」
「勇太くん。君の心情はともかく、さすがにこれ以上、計画の遅延は好ましくない」
信也は勇太と視線を合わせるでもなく、虚空につぶやくように告げる。
高位ギルド、『レギオン』と『カーラ』。
彼らが美羅のために尽くすその狡猾さと残忍さは、勇太が知る限りでも突出した存在であった。
「今度こそ、リノアを救ってみせる!」
勇太は両手で大剣を構えると信也と向き合った。
勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。
そして、信也への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。
「行くぜ!」
断定する形で結んだ勇太は、圧倒的な威容を誇る『レギオン』と『カーラ』の大軍に向かって駆けていく。
「残念だ。だが、君達が如何に阻止しようとしても、美羅様の真なる力の発動は必ず行われる」
望達の答えを聞いて、信也は失望した表情を作った。
「君達がどんなに拒んだとしてもだ」
先陣を切った勇太が戦端を切り開くように大剣を振りかぶる。
それに対抗するように、信也は秘めた力を発揮した。
苛烈な赫。麗しい美羅から授かりし浄化の色ーー『明晰夢』の力を励起していく。
覚悟の焱(えん)は優しく罪を吞み込んでいくことになるだろう。
罪炎が世界を焼くように。
望達が怯える事のないように。
長く苦しむことのないようにーー魔力を奔らせる。
しかし、信也が告げた確固たる信念ーーそれに水を入れる者がいた。
「吉乃信也。君は自分の持つ『明晰夢』の力の使い道を分かっていない。持てる力を振るわないのは罪だ」
「ーーっ」
信也が『明晰夢』の力を振るおうとしたその時、聞き覚えのある声が割って入ってくる。
鋭く重い音が響き、信也の身体が吹き飛ばされた。
「信也様!」
後方に大きく後退した信也の姿に、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は明確な異変を目の当たりにする。
思わぬ奇襲を前にして、信也のHPは減少していた。
「「なっ!」」
突然の闖入者に、望達は心穏やかではいられなかった。
何故ならーー
「今回は私も戦場に出よう」
風とともに翻る、青みがかかった銀髪。
鈴の音のような青年の声。
勇太の危機を救ったのは『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターだったから。
「……まさか、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターまでがお出ましとは」
起き上がった信也は表情に苦悶の色を滲ませる。
「せっかくだ、椎音紘。特殊スキルの使い手である君にもご同行願おうか」
「なら、私達を止めてみるがいい」
微かな高揚が窺える紘のその反応を見て、信也の背筋に冷たいものが走った。
今回は一緒に戦ってくれるのかーー。
心強い救援。
望は一拍置いて動揺を抑えると、紘が口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼する。
「紘!」
「紘様!」
徹とイリスは表情を綻ばせて、紘の参戦を歓喜の声で迎え入れた。
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