「有様。モンスター達の包囲によって、身動きが取れなくなってきています」
「プラネットよ、分かっている。徹に行き先のメッセージを送ってほしい」
モンスターに拳を振り下ろしたプラネットの戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
だが、有達の視界は既に、モンスター達によって埋め尽くされていた。
「プラネットよ、頼む」
「はい、有様」
有の指示に、プラネットは恭しく礼をする。
メッセージは、プレイヤー同士を繋ぐ通信手段だ。
プラネットが半透明のホログラフィーを表示して、徹に向けて文字を入力し、送信する。
プラネットによって、メッセージが徹へと送信される。
その手際を確認した花音は胸に抱える不安を口にした。
「お兄ちゃん、どうしたらーー」
「妹よ、分かっている。よし、この場で転送アイテムを使うぞ」
花音の悲痛な叫びに呼応するように、有は決断した。
正確には決断を強いられた。
転送アイテムを使って、遠距離へと移動する。
敵に位置を把握されるまでには、僅かに時間があるだろう。
さすがに召喚したモンスターごと、望達を追いかけてくるのは高位ギルドとはいえ、負担が大きいはずだ。
追いかけてくるのは、賢達『レギオン』のみだろう。
その前にーー新たな召喚が行われる前に攻められれば、逆転の勝利の光が見えるかもしれない。
だが、逆に新たな召喚が行われてしまえば、望達には手の打ちようがない。
「よし、この場から離脱するぞ」
「うん、勇太くん達も早く!」
「まあ、『アルティメット・ハーヴェスト』は僕達が離れたと分かれば、すぐに追いかけてくるだろうからな」
有の指示に、花音が勇太達に声をかけ、奏良は渋い顔で承諾した。
「おじさん、おばさん、行くぜ!」
「ああ。このままではジリ貧だ。一旦、体勢を立て直そう」
「ええ」
勇太は大剣を柄に戻すと、リノアの両親とともに望達のもとを目指して駆け出した。
全員揃った望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。
望達が気づいた時には視界が切り替わり、『ネメシス』のダンジョンの前にいた。
「わーい! 『ネメシス』のダンジョンに来たよ!」
『ネメシス』のダンジョンの前に来ていることを確認すると、花音は嬉しそうにはにかんだ。
「妹よ、喜んでいる場合ではない。『レギオン』が来たら再び、転送アイテムを使うぞ」
「えっ? 転送アイテムを?」
有の思惑が分からず、花音は小首を傾げる。
「相手も即座に、転送アイテムを使ってくるはずだ。そうすれば再び、新たなモンスターを召喚され、光の加護が付与されるだろう。そうなる前に、転送アイテムを使って離脱する」
有による、『レギオン』とのいたちごっこになる可能性を視野に入れた決断。
転送アイテムを使わなくては状況を打破できない、という思い込みを誘発した作戦だった。
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