「望くん、すごーい!」
「特殊スキルで、この場を逃れることができるかは分からないけれどな」
花音の言い分に、望は少し逡巡してから言った。
その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。
「でも、リノアちゃんは今回、望くんと一緒に特殊スキルを使わなかったね」
「一時的に元に戻った影響かもしれないな」
花音の咄嗟の疑問に、望は戸惑いながらも答えた。
「それって、もしかして……望くんが愛梨ちゃんに変わっても問題なくなったのかな?」
その時、不意の閃きが花音の脳髄を突き抜ける。
「わーい! これからは、望くんと愛梨ちゃん、どちらにも会えるよ!」
「妹よ。リノアは、一時的に元に戻っただけだ。望が愛梨に変われば、リノアは再び意識を失う可能性が高いと思うぞ」
喜色満面で喜び勇んだ妹の姿を見て、有は呆れたように指摘した。
「とにかく、先に進むぞ」
有の決意表明に、望達は『レギオン』のギルドホームを探って突き進んでいく。
だが、相手はニコットを始めとした高位ギルド『レギオン』。
騎士団に等しい。
それらを相手に戦い、この場所から脱出するのは骨が折れるだろう。
しかし、敵はそれだけではなかった。
機械都市『グランティア』を徘徊するモンスター達は、上級者クエストで遭遇したモンスター達だった。
キマイラ達が魔力を放出すると、望達に向かってマグマのような灼熱の珠が襲いかかる。
「くっ……! 街中なのに、人気が感じられない。今、機械都市『グランティア』には、『レギオン』と『カーラ』の者達しかいないのか?」
混沌とした炎舞を、望達はかろうじて避けた。
「わっ! 炎の珠の嵐で、先に進めないよ!」
即座に鞭による攻撃で怯ませようとしていた花音は、目の前に迫った炎の珠のラッシュに反撃の手を止める。
「切りがないな」
奏良は威嚇するように、キマイラ達に向けて、連続で発泡する。
風の弾がキマイラ達の顔面に衝突し、大きくよろめかせた。
『元素還元!』
有は、奏良へと注意を向けたキマイラ達の隙をついて、炎の珠に向かって杖を振り下ろした。
有の杖が炎の珠に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
炎の珠達が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
「炎の珠の寄せ集めでは、トラップアイテムを一つ作るくらいが関の山だな」
有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見る。
『元素復元、覇炎トラップ!』
今度は襲いかかってきたキマイラ達に向かって、有は再び、杖を振り下ろした。
有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。
キマイラ達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、瞬く間に灰にしてしまう。
「奏良よ、頼む」
「言われるまでもない」
有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。
発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、キマイラ達は次々と倒れていく。
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