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留菜マナ
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第五百三十七話 黄昏の想いは④

公開日時: 2024年12月6日(金) 16:30
文字数:1,166

「望くん、すごーい!」

「特殊スキルで、この場を逃れることができるかは分からないけれどな」


花音の言い分に、望は少し逡巡してから言った。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「でも、リノアちゃんは今回、望くんと一緒に特殊スキルを使わなかったね」

「一時的に元に戻った影響かもしれないな」


花音の咄嗟の疑問に、望は戸惑いながらも答えた。


「それって、もしかして……望くんが愛梨ちゃんに変わっても問題なくなったのかな?」


その時、不意の閃きが花音の脳髄を突き抜ける。


「わーい! これからは、望くんと愛梨ちゃん、どちらにも会えるよ!」

「妹よ。リノアは、一時的に元に戻っただけだ。望が愛梨に変われば、リノアは再び意識を失う可能性が高いと思うぞ」


喜色満面で喜び勇んだ妹の姿を見て、有は呆れたように指摘した。


「とにかく、先に進むぞ」


有の決意表明に、望達は『レギオン』のギルドホームを探って突き進んでいく。

だが、相手はニコットを始めとした高位ギルド『レギオン』。

騎士団に等しい。

それらを相手に戦い、この場所から脱出するのは骨が折れるだろう。

しかし、敵はそれだけではなかった。

機械都市『グランティア』を徘徊するモンスター達は、上級者クエストで遭遇したモンスター達だった。

キマイラ達が魔力を放出すると、望達に向かってマグマのような灼熱の珠が襲いかかる。


「くっ……! 街中なのに、人気が感じられない。今、機械都市『グランティア』には、『レギオン』と『カーラ』の者達しかいないのか?」


混沌とした炎舞を、望達はかろうじて避けた。


「わっ! 炎の珠の嵐で、先に進めないよ!」


即座に鞭による攻撃で怯ませようとしていた花音は、目の前に迫った炎の珠のラッシュに反撃の手を止める。


「切りがないな」


奏良は威嚇するように、キマイラ達に向けて、連続で発泡する。

風の弾がキマイラ達の顔面に衝突し、大きくよろめかせた。


『元素還元!』


有は、奏良へと注意を向けたキマイラ達の隙をついて、炎の珠に向かって杖を振り下ろした。

有の杖が炎の珠に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

炎の珠達が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。


「炎の珠の寄せ集めでは、トラップアイテムを一つ作るくらいが関の山だな」


有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見る。


『元素復元、覇炎トラップ!』


今度は襲いかかってきたキマイラ達に向かって、有は再び、杖を振り下ろした。

有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。

キマイラ達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、瞬く間に灰にしてしまう。


「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、キマイラ達は次々と倒れていく。

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