「機械都市『グランティア』に赴いたら、大変な事態になりそうだな」
奏良は疲れたようにため息を吐いた。
それはどこか諦めたような音をしていた。
だがーー。
『エアリアル・クロノス!』
奏良は全てを吹っ切るように、風を身体に纏わせて飛翔した。
望達も、風に引っ張られるように空に浮かぶ。
「よし、奏良よ。このまま、この部屋の上部に向かうぞ!」
「部屋の中で、空を飛ぶのってすごいねー!」
「すごいのか……?」
「すごいの……?」
有と花音が楽しそうにしている中、望とリノアは表情を凍らせていた。
インターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを確認しながら、有は拳を掲げて宣言する。
有達を追って、イリス達もまた空へと跳躍した。
「行くぞ! 美羅の残滓がいる、この部屋の最上部へ!」
「『レギオン』と『カーラ』の妨害はないみたいだな」
「『レギオン』と『カーラ』の妨害はないみたいだね」
望とリノアの警戒の言葉が届くこともないまま、有達は一足飛びに最上部を目指して浮上していった。
「妹よ、行くぞ!」
「うん」
最上部の更なる上へと先にたどり着いた有と花音は天井裏のフロアへと着地する。
「美羅ちゃんの残滓。どこにいるのかな?」
右手をかざした花音は、嬉々とした瞳で最上部のフロアを見回した。
そこにいたのはーー
「見て。いつかこの蒼い花は光になるんだもの」
青い花弁がフロアに舞い上がる。
仄かに輪郭を染める花弁はゆっくりと回転しながら降り注いだ。
望達が視線を向ければ、そこには一面に広がる青い花。
優しく光るその花は幻想的で、まるで夢を見ているよう。
「どんな蕾でも、いつかは花開くの。だから、前を向いて」
まるで幼子のように微笑んだ笑顔は甘やかな色彩に彩られる。
愛梨に似た少女ーー美羅の残滓の柔らかな頬が桃色に色づいていた。
「あなたは、ここでずっと、俺達が来るのを待っていたのか?」
「あなたは、ここでずっと、私達が来るのを待っていたの?」
交錯する視線。
とらえどころのない空気を固形化させる望とリノアの問いに、美羅の残滓は動きを止めた。
「私は機械都市『グランティア』に赴くための鍵。それ以上でもそれ以下でもありません」
「「鍵?」」
望とリノアは美羅の残滓の言葉を反芻する。
「ですが、情報を提示することは可能です」
機械に打ち込んだような言葉。
その中に美羅の残滓は一縷(いちる)の感情を垂らす。
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