「なっ!」
鋭く声を飛ばした徹は、最奥部に次々と入ってくるプレイヤー達の存在に気づいた。
全員がレア装備を身につけ、それぞれの武器を徹に突きつけてくる。
このまま、一人で戦うのはまずいなーー。
徹の頭の中で警鐘が鳴る。
やがて、遺跡の瓦礫から入る光が、騎士風の青年の容貌を照らし出す。
艶のあるプラチナの髪は気品に満ちており、まるで名のある名家の騎士団長のような風貌だった。
彼が装備する武器や防具はどれも精巧で、かなりのレアアイテムであることが分かる。
彼の周囲には、幾人ものプレイヤーがいた。
そして、次々と壁を作るように後続が現れる。
相手は、騎士団に等しい。
それらを相手に戦い、この遺跡から脱出するのは骨が折れるだろう。
徹がダンジョン脱出用のアイテムを使うタイミングを見計らっていると、青年は柔和な笑みを浮かべて言った。
「私達の邪魔をしないでもらおうか」
「なら、そもそも騎士様が不意討ちなんてするなよな」
「君に無礼を働いたことは謝罪しよう」
徹の訴えに、青年はあっさりと自分の非を認めた。
「さて、改めて自己紹介をしようか。初めまして、鶫原徹くん。私は手嶋(てしま)賢(けん)。『レギオン』のギルドマスター、美羅(みら)様の参謀を努めている」
「高位ギルドの騎士様が、俺に何の用だ?」
徹の素性を見透かしたような賢の言葉に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。
賢は目を伏せると、静かにこう続けた。
「君というより、『アルティメット・ハーヴェスト』に用があるかな。わざわざ、小規模な上位ギルドを監視していた理由を知りたい」
「……おまえ、知っていてわざと聞いているだろう」
賢の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。
「特殊スキルの使い手の動向は、私達としても放っておくわけにはいかない」
「とにかく、愛梨も紘も、そして蜜風望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
賢の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、おまえ達が言う美羅様は、愛梨の紛い物だろう!」
「……愚かな」
徹の答えを聞いて、賢は失望した表情を作った。
徹はその隙に、ダンジョン脱出用のアイテムを掲げる。
持っているアイテムが光り、徹は召喚した光龍とともにその場から姿を消した。
「賢様、いかがなさいますか?」
「構わない。特殊スキルの使い手の動向は全て、美羅様の手中にある。今後も『アルティメット・ハーヴェスト』、そして、蜜風望が所属している『キャスケット』の監視を怠るな」
「はっ」
賢の指示に、『レギオン』のメンバー達は丁重に一礼すると、速やかにその場を後にしたのだった。
カリリア遺跡から離れた場所にある機械都市、『グランティア』の一角。
そこに高位ギルドの一つ、『レギオン』のギルドホームがあった。
賢はドアのセキュリティを解除して、ギルドマスターが控えている部屋に入る。
そこは、物々しい機材が置かれただけの研究室のような空間が広がっていた。
ディスプレイや小型の機械は、全て中央の玉座へと繋がっている。
その玉座に、一人の少女が眠りながら座っていた。
腰まで伸びた透き通るような銀髪。
病的なまでに白い肌。
穢れなき白を基調したドレスは、愛らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。
まるで物語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの美貌。
髪の色以外は全て、愛梨と瓜二つの少女がそこに座っていた。
「カリリア遺跡から戻りました。美羅様」
片膝をついた賢からの報告に、美羅と呼ばれた少女は何も答えない。
賢は息を呑み、短い沈黙を挟んでから微笑んだ。
「美羅様、お喜び下さい。蜜風望と椎音愛梨の入れ替わりを確認しました」
賢は確信に満ちた顔で笑みを深める。
「特殊スキルの使い手を手中に収めれば、全ては美羅様のお望みのままに」
今も眠り続けている銀髪の姫君に、『蒼天の騎士』と呼ばれている賢は、片膝をついた姿勢のまま、誓いを交わした。
特殊スキルの使い手である愛梨をもとにした『データの残滓である姫君』に忠誠を誓う騎士。
それは、どこか滑稽で狂気に満ち溢れた光景だったのかもしれない。
しかし、そのことを訝しむ人物は、このギルド内にはいなかった。
やがて、賢は立ち上がり、美羅の側まで歩み寄る。
美羅を敢えて、AIを持つNPCとしての運用ではなく、愛梨のデータの集合体として留めている理由は、彼女にーー美羅に特殊スキルを発現させるためだった。
NPCにしてしまえば、スキルを発動させることはできない。
「美羅様、どうか私達に再び、ご加護をお授け下さい」
賢は祈りを捧げて、意思のないデータの固まりである美羅を神聖化する。
まるでそれは一度、何かしらの事情で引き離された主君に再度、忠誠を誓う聖なる儀式のようでもあったーー。
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