兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第ニ百六十八話 唯一無二の想い⑧

公開日時: 2021年6月13日(日) 16:30
文字数:1,762

「望、リノア、奏良、プラネット、勇太、徹、そして妹よ、後戻りはできない。全力で葬るぞ!」

「うん」

「はい」

「逃げられそうもないからな」


有の指示に、花音とプラネットが頷き、奏良は渋い顔で承諾した。


「この場所に、何でこんな強力なモンスターがいるんだ?」

「予め、『レギオン』の召喚のスキルの使い手達によって呼び出されていたのかもな」


勇太の率直な疑問に、徹は忌々しそうに応える。


「彼らを捕らえろ!」


徹の言葉を裏付けるように、『レギオン』のギルドメンバーの一人が叫ぶ。


「ーーみんな、攻撃が来るぞ!」

「ーーみんな、攻撃が来る!」


望とリノアの叫びと同時に、有達は一斉に散開した。

飛び込んできたボスモンスターの胴体が、地面に突き刺さる。

砕かれた岩の破片が、この場所ーー全域まで吹き飛んだ。

胴体がまともに当たれば、死亡。

砕けた破片に当たっても危険。

『レギオン』のギルドメンバー達に呼び出されたモンスターは一撃で、望達のHPを大幅に減らすほどの力を備えていた。

望達にとって明らかに分相応な戦いだが、このモンスターを倒せば、転送アイテムか、転送石を使ってギルドに戻ることができる。

危険な賭けだったが、望達は敢えて、この凶悪なモンスターを攻略するという勝負に出た。


「モンスターと戦うことを選んだか」


賢が、望達の思惑に合点が行ったとばかりに言う。

望達は申し合わせたように、一斉にその場から踊り出た。

猛然と進撃を開始した望達の放つ強い気配。

凶悪なモンスターは、視界に彼らの姿を捉える。

賢が着目したのは、先陣を切った望とリノアだった。


「「はあっ!」」


望とリノアは剣を掲げると、連なる虹色の流星群を一閃とともに放つ。

望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。

それが融合したように、モンスターに巨大な光芒が襲いかかる。


『ガアッッーーーー!!!!』


一片の容赦もない二人の剣の一振りを受けて、モンスターは落下し、HPを大幅に減らす。

しかし、その瞬間、後方に控えていた『レギオン』の魔術の使い手達がモンスターのHPを回復した。


『ガアッッーーーー!!!!』


モンスターは再び、浮かび上がると、今度は周辺一帯に魔力を放出する。

周辺全体に向かって、斜線状が黒い墨が襲いかかった。


「「くっ……!」」


混沌とした墨状の一線を、望達はかろうじて避けた。


「わっ! これじゃ、前に行けないよ!」


即座に鞭による攻撃で怯ませようとしていた花音は、次々と放たれる墨の一線に反撃の手を止める。


『エアリアル・アロー!』


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉にモンスターへと襲いかかった。

HPを示すゲージは少し減ったものの、青色のままだ。

その時、大剣を抜き放った勇太が、リノアの両親とともに攻撃に加わってきた。


「リノアには手出しはさせない!」


打ち倒すべき敵を睨み据えた勇太は床を蹴って、勇猛果敢に賢に向かって駆ける。


「勇太くん。今は、君の相手をしている暇はない」


勇太を迎え撃つように、賢は厳かに剣を構えた。


「だったら、リノアを今すぐ元に戻せ!」

「……愚かな」


勇太の即座の切り返しに、賢は落胆したようにため息をつく。


「喰らえ!」

「……くっ」


勇太の大剣との賢の剣のつばぜり合いは一瞬で終わり、カキンと高い音を響かせて離れた二人は、そこから脅威的な剣戟の応酬を見せた。

先程の戦いで見せた速度をさらに越える瞬発。

迷いのない美しい賢の一刀に、勇太はぎりぎりのところで大剣を受ける。

剣と大剣がぶつかり合う度に散る、互いのHP。


『フェイタル・レジェンド!』

「ーーっ」


勇太が放った天賦のスキルによる大技は、賢の距離が極端に離れたことで対応された。


「すごいな」

「すごいね」


高度で複雑な剣閃の応酬。

勇太はリノアの両親のスキルによって、体力を回復し、攻撃力を上げたことで、接戦へと持ち込めていた。

モンスターによるレーザーの如き墨の波動を避けながら、望とリノアは驚嘆のため息を吐く。


「『レギオン』の視線が勇太くんに向かっている今なら、彼女の座標をずらされることはないはずだ。俺が戦っても問題ない!」

「『レギオン』の視線が勇太くんに向かっている今なら、私の座標をずらされることはないはず。私が戦っても問題ないよね!」


モンスターによる鳴り止まない砲撃音の中、望達はモンスターを倒し、『レギオン』の魔の手から逃れるために周辺一帯を駆け回った。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート