最早変わり果てた姿となってしまったリノアの身を案じ、勇太は目を閉じる。
『私が美羅様になったら、もう勇太くんが知っている『私』じゃない。だから、絶交中でも、最期のお別れを言いたかったの』
勇太は不意に、あの日、リノアが浮かべた寂しげな笑みを思い出す。
リノアの笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じる。
今のリノアは、もう俺の知っているリノアではない。
だけど、今度こそ、リノアを守りたい。
リノアを、あいつらの思い通りにはさせない。
ただそれだけの想いが激しく勇太の心臓を打ち鳴らし、ひとかけらの冷静さをも奪い去ってしまった。
だけど、美羅を解放しても、リノアが元に戻らなかったらーー。
勇太の脳裏に、沼底から泡立つように浮かんだその可能性。
そこに込められた意味だけが、彼の行動理念を象り、刻みつかせていた。
「僕は美羅を解放したら、リノアが元に戻ると思っていた。だが、美羅を宿した者は虚ろな生ける屍になる。もし、既に彼女の意思がなかったらーー」
もっとも恐れていた事態の到来に、奏良は悔しそうに言葉を呑み込む。
「美羅を解放しても、リノアはこのままなのか……」
「それはどうでしょうか?」
苦悶の表情を刻む勇太の声に呼応したのは厳かな声音。
流れを失った水はやがて澱み、腐り果てる。
永劫にも思える平穏は、永遠に等しい無変化で、同時に残酷で優しい微睡のようなものであった。
しかし、明けない夜がないように、いつかは陽の光は射す。
イリスが毅然とした態度で告げた言は悲哀の沼に足を取られた勇太にとって希望の灯しだった。
「久遠リノア様の意思は残っているものと思われます。私はそう信じています」
「そうだな」
「そうだね」
地上へと舞い降りたイリスは、迷いのない足取りで望とリノアのもとへと歩み寄る。
望は確証を持たず述べたが、それが答えで間違いないと思えた。
「皆様、ご無事で何よりです」
「ああ」
「うん」
イリスがおずおずと誠意を伝えてくると、振り返った望とリノアは安堵の表情を浮かべた。
「上空に配置されていました罠は解除しています。ただ、他にも罠が仕掛けられている可能性があります」
「上空以外にも罠が仕掛けられているかもしれないのか」
「上空以外にも罠が仕掛けられているかもしれないの」
イリスが発した警戒の声に、望とリノアは表情を雲らせる。
「でも、これで鞭で攻撃できそうだね」
上空の罠が解除されたことで、花音は鞭を手に戦闘体勢に入った。
「よーし、一気に行くよ!」
風が吹き抜ける音を合図に、花音は跳躍し、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達へと接近する。
『クロス・リビジョン!』
「なっ!」
今まさに花音達に襲いかかろうとしていた『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。
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